血の臭い。
剣の音。
響く悲鳴。
木魂する断末魔。

全ては遥か空に住まう一体の神が引き起こした事だと聞いている。

おかげで海と空が戦っている。
海が生み出した小さな命を守る為に。



七色の星、紫蒼の光
今居る場所は日の光があまり届かない。 だから今が昼なのか夜なのか、良く分からない。 けれどいつも自分を起こしに来てくれる人が居て いつも自分に会いに来てくれる人が居て その時に起きると、それとなく明るい気がする。 だから今は昼なのかなと思う。 今持っている一番古い記憶。 暗い暗い海の底。 何故海の底なのかは分からない。 其処で何があったのかも分からない。 ただ、これが今持っている一番古い記憶なのは確かな事。 少しずつ少しずつ思い出している。 全てを失った分、それを埋めるかのように。 記憶を作り、思い出していく事を楽しむように。 ゆっくりと。ゆっくりと。 「ねぇ、ツウォンって俺の何?」 其れはほんの些細な事。 いつものように会いに来たツウォンに今迄疑問に思っていた事を聞いてみた。 「・・・其れは、如何云う意味だ?」 「・・・・・・え・・・如何って、その・・・オトウサンとかオカアサンとか・・・」 「ああ、そう云う事か」 ツウォンは納得したように、殊の外ゆっくり話した。 「そうさな・・・お前は儂が創った存在・・・となれば父にでも母にでもなるわけだ」 ラグゥはいつもの如く、ぼんやりと聞いている。 「・・・ツウォンって男?女?」 不意に聞く。 「どちらでも無い。ヌシもな」 「ふ〜ん・・・なら、ツウォンは俺の・・・・・・お父さんでもあるしお母さんでもあるって・・・事?」 「そうなるな」 其れは、本当に些細な事だった。 只、疑問に思っただけだった。 彼は自分の何なのか。 疑問に思っただけだった。 自分が創られた存在である事は知っている。 創ったのが彼だと言う事も。 けれど、だからと言って此れ程自分に構う必要があるのか。 ずっと不思議に思っていた。 答えは未だ、見付からない。 そんな或る日の事。 ラグゥが姿を消した。 「側役のお前が居ながら何故じゃ!」 知らせを聞き、慌てて駆けつけたツウォンはラグゥの側役のレギの胸倉を掴んだ。 「分かりません・・・俺が来た時にはもう既にいらっしゃらなかったんです!」 『ツウォン・・・レギの言っている事は本当だよ。彼が来る前にラグゥは此処から居なくなったんだ』 ホシカゲが二人の間に入って事態を収集した。 その様子を興味無さそうにホシカゲの側役であるミクニが眺めている。 そしてふと、彼は視線を外に向けた。 ツウォンは苛々しながら行ったり来たり。 『ツウォン、少し落ち着きなよ』 「これが落ち着いていられるか!奴に見つかったら如何する!」 ツウォンは怒りに満ちたような、焦ったような顔をしていた。 「それこそ・・・何をされるか分からぬ」 「あのぉ〜・・・・・・お取り込み中申し訳ないんですけどぉ」 おずおずとツウォンの側役のフォンがやって来た。 右手に提灯を下げ、左手で誰かを引いているような仕草。 「何用じゃ、フォン」 「さっき辺りをふらりとしていたら、偶然見つけたんですけど」 左手には泣いていたのか、目が真っ赤に腫れたラグゥが俯いて立っていた。 「ラグゥ!何処に行っていたのだ!心配したのだぞ!」 ツウォンが慌てて駆け寄った。 しかしラグゥは俯いた侭、何も言わない。 それどころかフォンの後ろに隠れてしまった。 「ラグゥ・・・如何したのだ?」 『もしかしてツウォンが怒ってるから怖くなったんじゃないの?』 「なっ・・・わ、儂はただ心配で」 『はいはい、分かってるよ。ラグゥ、ツウォンはラグゥのことが心配だったんだからね。  だからあんなに血相変えてたんだよ』 ホシカゲが優しく言ってもラグゥは隠れた侭。 『ラグゥ?本当に如何したの?』 ラグゥの様子がおかしいことにホシカゲが気づいた。 ラグゥは小さな声で、それこそ蚊が鳴くような小さな小さな声でポツリと言った。 「・・・・・・ごめんなさい」 今にも消え入りそうなほど、弱弱しい声だった。 「ラグゥ・・・・・・儂は別に怒ってないぞ」 「違うんだ・・・そうじゃ、なくて・・・・・・」 意を決したようにラグゥはツウォンに向かって言った。 「今まで・・・・・・忘れててごめんなさい・・・!忘れちゃいけなかったのに、俺・・・」 其処まで言うと、耐え切れなくなったのか再び泣き出してしまった。 「ラグゥ・・・まさか」 『記憶が戻ったの?』 そう聞くと、震える肩で小さく頷いた。 そしてまた 「ごめんなさい・・・」 「あぁ、もう良い。泣くでない、ラグゥ」 『何かツウォンが泣かせたみたいだよね、此れ』 「煩い」 ツウォンはラグゥを慰めるのに精一杯だった。 それにレギも加わる。 「微笑ましい光景だな」 ミクニがポツリと呟いた。 「そうだね。大戦の時じゃあ考えられなかったでしょ?」 「戦いだけだったからな。俺は今でもそうだが」 「何処が〜。思いっきりホシカゲ様に馴染んでるじゃん」 「斬るぞ」 ミクニは徐に仕込み杖の鯉口に手をかけた。 『ミクニ。此処はラグゥの場所。抜刀は許されないよ』 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 振り向かずにホシカゲは制した。 それにミクニは大人しく従う。 変わった、と。 此の頃ミクニは言われるようになった。 大戦が終わり、ホシカゲの側役となって数年。 それでも今も戦いの感覚を忘れられないでいる。 刀を手放さないところや、常に周囲に気を張り詰めているところも。 けれど変わったと言われる。 彼自身は如何してか等さほど興味はない。 変わったと言われるのなら変わったのだろうと、そう思うだけ。 それ以外は特に思うこともなく。 「ラグゥ様は」 不意にミクニは口を開いた。 「大変だったんだろうな。あの様子だと、突然記憶が戻った感じだし」 「そうだね。きっと物凄く吃驚して頭がゴチャゴチャになっちゃったんじゃないかな」 チリンと仕込み杖の飾りが鳴った。 濃い蒼から淡い蒼へと変わる服が棚引く。 「ミクニも大変だったね」 「そうか?」 「そうだよ」 そう言ってフォンは笑う。 ミクニはそれを一瞥して 「良くは、分からないがな」 ほんの少しだけ、口に笑みを浮かべた。 一向に泣き止まないラグゥに痺れを切らしたミクニが 「ウザッ。泣き言禁止」 と手を振り上げかけるまであと少し。 終わり。 伝説面子です。 ホシカゲの側役、スターミーのミクニが登場です。 主に対しても、他人の主に対してもズケズケ物を言います。 遠慮はありません。でも場は弁えてます。大人です。 ついにラグゥの記憶喪失が治りました。 ラグゥは今まで記憶を失っていたことに罪悪感を覚えて一人泣いてたのであります。 お子様ですから。ええ。 泣き虫で寂しがり。ムナと共通することが沢山です。 違うと言えば、あれですかね。まだ自立しきってないところとか。
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