全てから目を背ける程の臆病者でも。
全てから耳を塞ぐ程の卑怯者でも。

其れで良かった。

俺は、其れで良かったんだ。


けど・・・・・・・・・・・・


あんたは・・・そうじゃ無かったんだな・・・・・・



名残緋雪 狂露
雅緋が目を覚ました時、其処は既に自分の部屋だった。 数回瞬きをして、暫くは只ぼうっと、天井を眺めていた。 あの場所に渦巻いていた声に流される侭、力を使ってしまった。 御陰で彼の体は力尽きて動く事すら億劫になっていた。 ・・・・・・馬鹿だな・・・ 雅緋は自嘲した。 あれだけ使いたくない、と誓ってもあっさりと使ってしまった。 力を使った後の事は覚えていない。 使った瞬間に意識が途絶えてしまった。 気が付いたら、自分の部屋。 ・・・此れを馬鹿と云わずに何を馬鹿と云うんだか・・・ 自分の馬鹿さ加減にうんざりしながら雅緋はゆっくりと起き上がった。 其れとほぼ同時に部屋の外から足音が近付いてきた。 テコテコと、聞き慣れた独特の足音。 「にぇ〜〜。みやちゃん、大丈夫かな〜?」 当主の威波だった。 「・・・威波兄」 「にぇっ!みやちゃんったら、起きて大丈夫なの?」 威波は心配そうに雅緋に云った。 「・・・・・・ん」 眉毛を見事なハの字にして問いかけた童顔な当主に雅緋は微かに頷いた。 威波は雅緋にとって数少ない、一緒に居られる相手だ。 頭に響いてくる声が然程気にならない、と云うのもある。 だが其れよりも、安心出来ると云うのが大きい。 「あ、そうそう。あのね、露斗だったら家には居ないよ?」 「・・・・・・は?」 行き成り云われ、雅緋は対応し切れなかった。 困惑した雅緋にニッコリと笑いかけながら威波は更に続けた。 「気になるんでしょ?露斗の事」 「其れは・・・・・・・・・」 違う、と云えば嘘になる。 確かに目を覚ましてから、何時もなら聞こえてくる声が聞こえない事を気にしていた。 けれど、其れで声の主本人を気にしているとは、雅緋自身思って居ない。 「みやちゃん」 押し黙ってしまった雅緋に優しく威波は云った。 「たまには自分に正直になるのも良い事だよ?別に其れで君を笑ったりなんかしないからさ。  自分を偽り続けて生きても詰まらないじゃないか。特に、俺達はさ」 だから 「行ってあげなよ。待ってるよ、みやちゃんの事を」 「・・・・・・そんなの・・・」 分からない 「でも、みやちゃんは行きたいんでしょ?」 「・・・俺、は・・・」 分からない 微かな戸惑いの中で、首の鈴が哀しげに鳴った。 降っていた雪は止み、沈みかけの太陽が辺りを照らしていた。 辺りは静けさに包まれて、寒さだけが現実感を醸し出していた。 家の近くの林の中。 其の中でも一際大きな木には人一人が入れる穴が開いている。 そして、其の中に人が一人座っていた。 何処を見つめているのか、目には何も映っていない。 寒さを感じないのか震えもしていない。 何も聞こうとせず、何も見ようとはしていなかった。 只、時が過ぎるのをじっと待っていた。 そんな時 一筋の風が吹き、微かに鈴が鳴った。 のろのろと顔を上げると、其処にはしかめっ面をした緋髪が立っていた。 「・・・やっぱり、此処に居た」 呆れたような、ほっとしたような声だった。 しかめっ面は其の侭に被衣を無造作に投げて寄越した。 其の被衣を受け取らず、只眺めた。 「・・・・・・何時だかと、逆だな。あんたでも此処に来るのか」 答えが返って来る事など無いと知りながら言葉を紡いだ。 「・・・此処は静かだからな、何も考えずに済む・・・・・・・・・・・・けど」 一歩近付いた。 「其れだけだ」 又、近付いた。 「其れは其れで、良い事かも知れない。あんたが其れを望むのなら、俺は止めようとは思わない」 静かに云った。 「只、俺はあんたに云いたい事があったから来たんだ」 其れは本当に静かで抑揚の無い声で。 ゆっくりと近付きながら云った。 「あんたの、所為じゃない」 初めて、雅緋は人の顔を見て言葉を紡いだ。 「全部、俺が悪い。あんたが俺を京に連れ出した所為でも、俺を止められなかった所為でもない。  声に流された、俺が悪い」 静かに、然しはっきりと云った。 無表情を少しだけ崩して。 何処か哀れむような、諦めにも似たそんな顔で。 「だから」 体を屈め、蹲った塊に手を伸ばした。 ゆっくりと近付いた。 塊に触れると、冷たかった。 其の冷たさに微かに驚きながら、又近付いた。 そして 「・・・・・・あんたが・・・泣く事なんて、無いんだ・・・」 いつしか、凭れ掛るようにして塊を抱き締めていた。 其の力は、とても弱かった。 どれ位そうしていただろう。 冷たさが消え、仄かに暖かくなっても離れる事は無かった。 「・・・・・・う〜〜〜〜〜〜ん、と・・・」 正気を取り戻した露斗が目にしたのは、自分に凭れ掛って眠っている雅緋だった。 何時雅緋が来ていたのか、露斗には分からなかった。 「もしもぉ〜〜し、みやちゃ〜〜ん?」 取り敢えず雅緋を起こそうと声を掛け体を揺すった・・・が、彼は一向に起きる気配を見せない。 其れ処か、離れようともしないのだった。 「俺がこうしたら怒るくせに・・・自分は良いの?全く」 苦笑しながらも、嬉しそうに雅緋の頭を撫でた。 此れ以上冷えないように抱きながら。 露斗は、一握りの幸せを手に入れたような気がしていた。 今は、傍に居るだけで良い。 傍に居てくれるだけで良い。 でも、いつか其れでは嫌になるのかもしれない。 君は・・・如何なんだろう? そう云ったら怒るかな? でもね 俺は、幸せだよ? 君が居てくれるだけで。 今は・・・そう、今だけは―――――――――― 終劇 はい、続きです。 少しは距離が縮んだでしょうか?雅緋なりには縮んだと思います。 彼、接触恐怖症ですから。そんな雅緋が自分から触れようとする辺り、縮んだと思いたいところです。 露斗は今回、多少壊れてました。 責任を感じてしまって、閉じ篭ってしまったのです。 露斗の壊れ方は毎回こんな感じです。激しい自己嫌悪ってなところです。 ・・・そう云えば、春輝を全然出してませんね・・・。 次回辺り春輝を絡ませてみようかな・・・。 では、まだまだ続きます。 ええ、マジで。
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