風が吹いた。
音も無く。

鈴が鳴った。
哀しげに。

ねぇ、君は如何して


如何して・・・・・・――――――



名残緋雪 緋壊
誰にも気付かれなくて良い。 頼むから、気付かないで。 こんな力を持っている事を、誰にも知られたくは無いんだ。 気付いたら 気付かれたら もう 此処には居られない。 嫌われたくない。 好かれたくない。 お願いだから どうか、忘れて。 俺の事を 此処から・・・―――此の世から――――― 雪が本格的に降って来た、如月の月。 雅緋は不本意ながら京に来ていた。 原因は露斗の我侭。 雅緋が己の能力の所為で、人込みが嫌いなのを承知で 「一緒に行こう!」 と、云い出したのである。 勿論、反論したのだが露斗は聞かず、半ば強引に雅緋を京へ連れてきたのであった。 京へ近付く毎に声が大きくなる。 耳を塞いでも聞こえてくる声が。 雅緋には、其れが耐え難い。 元々静かな処を好む性質だからなのか。 其れとも 聞こえてくる声を嫌っているからなのか。 「みやちゃん、大丈夫?」 露斗は自分の後ろを黙って歩く雅緋に声をかけた。 しかめっ面で眉間に皺を寄せている彼の様子が少し気になったのだ。 「・・・そんな事聞く位なら、最初から俺を連れ出すな」 「あはは、そうだね。ゴメンゴメン」 笑いながら謝ると、雅緋は一瞬だけ露斗を睨んだ。 そして其の侭、顔を背けた。 ・・・・・・・・・・・・? 露斗は雅緋の様子が可笑しい事に気が付いた。 普段ならば拳骨の一つ位飛んで来ても可笑しくないのだが、今日に限って其れが無い。 「みやちゃん?」 「・・・・・・何だ」 答える声にも何処となく覇気が無い。 しかも、微かに震えている。 「本当に大丈夫?」 「・・・・・・・・・・・・何度も云わせるな」 「休もうか?」 「・・・・・・っだから・・・!」 何かを云おうとした雅緋の動きが止まった。 只一点だけを見つめて。 あの方角は・・・六条河原? 露斗は雅緋が見つめている方角に目を向けた。 煙が上がっていた。 「?火事かな?」 「・・・・・・・・・・・・・・・違う・・・」 「え?」 「・・・・・・・・・・・・火事じゃ、無い・・・・・・」 「じゃあ一体・・・・・・ってみやちゃん!?」 露斗が考えている隙に雅緋は駆け出していた。 其の足は六条河原へ 只、只管に。 「みやちゃん、待ってよ!みやちゃん!!」 露斗も必死になって追いかけた。 然し中々追いつけない。 みやちゃんってこんなに速かったっけ・・・? そんな事を考えていた時。 鈴が、鳴った。 「え?」 又、静かに鳴った。 普段はどんなに揺らしても鳴らない筈の鈴が鳴る。 其れが如何云う事を意味しているのか、露斗は分かっていた。 まずい・・・此れは本当にまずい事になるかも・・・! 膨れ上がる不安を抑えながら、露斗は雅緋を追って六条河原へ走った。 其の間も鈴は静かに鳴り続けた。 六条河原に着いた露斗の目に入ってきたのは、信じられない光景だった。 「・・・な、何だよ、此れは・・・」 辺り一面、人の死体で埋め尽くされていた。 焼けて半分煤になったもの、焼けずに其の侭残っているもの。 そして、漕げた匂いと血の匂い。 「一体誰がこんな事を・・・・・・」 半ば呆然と露斗は呟いた。 時折衝動的に人を殺してしまう彼にとっても、この有様は酷く見えた。 何せ人の数が桁違いに多いのだ。 小さな村一つ程の人数が殺されていたのだった。 「・・・!みやちゃん!」 露斗は漸く追っていた人物を見付けた。 雅緋は呆然としながら立っていた。 「みやちゃん!みやちゃんってば!!」 肩を揺すっても大声で呼びかけても雅緋は反応しない。 まるで意識が此処には無いかのように。 「みやちゃん!・・・起きろ!雅緋!!」 「・・・・・・・・・・・・!!」 漸く反応して雅緋は露斗を見た。 「・・・・・・あ・・・・・・・・・」 然し、其の表情は普段の彼からは想像も出来ない程、恐怖に彩られていた。 其の証拠に体もガタガタと震えている。 「・・・みやちゃん・・・?如何したの?何か怖い事でもあったの?」 露斗は心配になって雅緋に問い掛けた。 雅緋は震えているだけで何も云わない。 「みやちゃ・・・・・・!?」 背後に気配を感じて露斗は振り向いた。 其処には人が一人立っていた。 「・・・・・・あんたは・・・」 其の人物は露斗が良く知っている人物だった。 内裏で一位二位を争う程の権力の持ち主。 「・・・左大臣殿・・・」 影の帝とも呼ばれている人物だった。 「久しいな、蒼天の」 左大臣は薄く笑い、そう云った。 露斗は震えている雅緋を後ろにやり、左大臣の方を向いた。 「・・・この様な処に何用で御座いますか?」 露斗は努めて冷静に問い掛けた。 内心では、一向に鳴り止まない鈴の事が気掛りでならなかった。 「・・・何、所用でな。詰まらない事だ・・・・・・して、其方達は何用で此処へ来たのだ?」 「偶々通り掛っただけです。煙が見えたので何かあったのかと思い、駆けつけた次第で御座いますが」 左大臣は又、薄く笑った。 露斗は直感した。 彼がやったのだ、と。 でも、何でこんな事を・・・? 「わしがやった、と思うて居るな?」 「な!?」 考えている事を見抜かれ、露斗は驚愕した。 「ははははは!其方は昔から勘が良いからのう!!そうじゃとも、わしがやったのだ!」 左大臣は楽しそうに笑いながら云う。 本当に楽しそうに。 「・・・・・・!!何故、何故こんな事をしたんだ!」 「只の酔狂ではないか。くくく・・・其方も同じじゃろうて?」 露斗を見て左大臣は一層薄く笑った。 同じ穴の狢だと云わんばかりに笑った。 「・・・・・・・・・俺はっ・・・」 「違うとでも云うのか?知って居るぞ?其方が衝動的に人を殺さんといけないことをな!」 又、笑った。 露斗は拳をきつく握り閉めていた。 握った拳から、血が流れていた。 「・・・・・・お前が・・・やったのか・・・?」 不意に、雅緋が問い掛けた。 「!?み、みやちゃ・・・」 「・・・やったのか・・・・・・?」 露斗の事など眼中に無いように左大臣に問い掛けた。 「さっきから云っているだろう。わしがやったとな!!」 左大臣は薄く笑い、云った。 雅緋は其れを見てゆっくりと左大臣に近付いた。 体の震えは止まっていた。 「・・・お前が・・・殺した・・・・・・・・・」 うわ言のように呟きながら、近付いていく。 不気味な程に、辺りは凪に包まれた。 「声が・・・五月蝿いのはお前の所為か・・・・・・お前が殺したからか・・・  だから、こんなにあいつ等が五月蝿いのか・・」 又一歩、近付いた。 「・・・・・・・・・・・・お前を・・・・・・」 鈴が 「・・・殺せ、と・・・・・・」 鳴った。 そして 風が、吹いた。 「・・・みやちゃん?」 露斗が気が付いた時、雅緋は又、呆然と座り込んでいた。 辺りは風で吹き飛ばされて、何も残っては居なかった。 其処には露斗と雅緋だけ。 「みやちゃん!みやちゃん!!」 必死に呼びかけても反応はしなかった。 鈴は鳴らない。 雅緋も又、鈴の音と共に何も云わなくなった。 虚ろを見つめるだけだった。 「ごめん・・・ごめんね・・・・・・」 露斗は雅緋を抱き締めた。 其れでも反応はしなかった。 「君にこんな事をさせて、ごめんね・・・」 きつく抱き締めた。 其の時、一滴の涙が流れた。 好かれなくて良い。 嫌われたままで良い。 だから如何か こんな化け物の俺の事なんか忘れて・・・・・・ 終劇 ・・・何なんでしょうかねぇ!此れは!! さっぱりわけ分からん方向に行ってしまいましたよ。 二人が接近するどころか、そんな展開すら無さそうですね、此れ。 いやいや、此れからですよ、多分。 えっと、雅緋が壊れかけてます。 かけてるんですが、本気で壊れてしまうか如何かは未だ分かりません。 もう一人居ますから。壊れやすいのが。 そいつの為にも壊れてる暇なんか雅緋には無いかもしれませんね。 では、まだまだ続きます。 ええ、マジで。
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