君と出会って
君と話して
君と共に居て

俺は何度、君に救われただろう。
君という存在に。

だから、いつか君に云おうと思う。




名残緋雪 露流
「おぉ〜〜〜。綺麗だねぇ〜」 「そうですねぇ〜、此れだけ見事に咲くんですね・・・桜は。  ねぇ?雅緋兄さん」 「・・・・・・・・・・・・だったら桜の方を見て云え、そういう感想は」 何時も通り眉間に皺を寄せて雅緋は茶を啜った。 今日は三人で花見をしに来た。 今回に限っては露斗の我侭ではない。 当主である威波が『行って来い』と云ったのだ。 其れでも嫌がっていた雅緋に威波は『当主命令』として行くように云ったのだった。 そして今に至る。 「お天気は良いし、ぽかぽか陽気だし、みやちゃんは居るし。  今日は良い日になりそうだねぇ〜」 御弁当を入れた風呂敷を持って露斗は嬉しそうに云った。 「何で其処に"俺が居るし"って入るんだよ」 「其の侭の意味だけど?」 「意味が分からないから聞いてんだ、俺は」 「んもぅ!みやちゃんったら、そんなに聞きたい?」 「聞きたくない」 雅緋はそっぽを向いた。 鴨川の辺に陣取り、三人は並んで座っていた。 のんびりと桜を見て過ごす。 「春だねぇ〜」 露斗はのほほんと茶を啜りながら云った。 三人とも、春を知らない。 桜も知らない。 はっきり云えば、此れが初めての春であり桜であった。 満開に咲いた桜の花が風に吹かれて舞っていた。 本日の御昼はイツ花特製御握りと御新香。 露斗はのんびりと、春輝はのほほんと、雅緋はげんなりと。 三者三様に御握りと御新香を食べ、茶を啜った。 何度も風が吹き、花を舞わせる。 「みやちゃん」 不意に露斗が話し掛けた。 「何だ」 「桜は嫌い?」 「・・・何で」 「風が吹くから」 風は止む事無く吹いている。時に強く、時に弱く。 雅緋は露斗を見ずに上を見上げ、ポツリと云った。 「・・・・・・散った花弁が・・・邪魔」 又、風が吹いた。 雅緋を中心に。まるで、彼を守るかのように。 風に舞う花弁が遠くへ飛ばされていた。小さく千切れて、消えていった。 「何も言葉にしないね」 花見を終え家に帰り、一人部屋に居た雅緋に露斗はこう云った。 「・・・・・・何が云いたい」 「みやちゃんは云いたい事を殆ど口にしないなぁって思ってさ」 「あんた程じゃない」 雅緋は露斗に背を向けた侭、ぼろぼろになっている本を開いた。 当主しか読まない筈の、其の本。 「何だ・・・無いと思ってたらみやちゃんが持ってたんだね」 初代当主が神に気付かれないよう、密かに書き残した本。 其の本の最初の頁にはこう記されている。 "前に進め。どんなに絶望しようと。どんなに失望しようと。" 「・・・・・・イツ花に見付かる前に隠しといてやったんだ。有り難く思え」 「うん、そうだね。有り難う」 雅緋は本を閉じ、露斗に渡した。 「何処まで読んだの?」 「全部」 雅緋は半ば、躊躇いがちに云った。 見付けて、其の日のうちに全て読んだ。もう、一週間程前になる。 「・・・なら、もう知ってるんだ」 「知っている」 部屋に風が吹き抜ける。 優しく、寂しげな風が。 「・・・・・・あんたは何も言葉にしない」 「うん」 「何時も笑っているだけで、何も」 「うん」 「だから」 雅緋は背を向けた侭。 露斗は背を見詰めた侭。 「俺も何も云わない」 「うん、分かってるよ。みやちゃん」 風が吹き抜ける。 春風が優しく哀しく吹き抜ける。 桜の花が音も無く、只ひらひらと風に舞い、消えていった。 「ねぇ、みやちゃん」 「何だ」 露斗は言葉無く雅緋に背中合わせで座った。 寄り掛かるでもなく。 「もう少ししたら、一寸六条辺りに行こうか」 やけに静かな声だった。 「・・・・・・変えられないんだな」 ポツリと雅緋は云う。 けれど、蔑む事無く。嘲る事無く。 「あの人を止めに行く」 「"止め"られるのか」 「止めるさ。どんな形になったとしても」 露斗は立ち上がった。 其れに合わせて微かに鈴が鳴る。涼しげな音がした。 「・・・・・・・・・・・・其れが」 部屋から出る露斗に雅緋はこう云った。 「其れが定めならば仕方ない・・・・・・付き合ってやるよ」 小さく鈴が鳴り、風が吹いた。 狂う事の無くなった歯車が再び狂い始めたのか。 水平な筈の水面に波が生じた。 蝕まれていく思いに。 狂わされる思いに。 "前に進め。どんなに絶望しようと。どんなに失望しようと。" あの本の最初はこう書かれていた。 そして最後にはこう書かれていた。 "迷ったって良い。迷いながら生きていけ。" 迷い続けている。 今も、昔も。そして、此れからも。 出口の見えない迷路を只、只管歩き続けている。 差し伸べる手に気付かずに。 掴もうとする手に気付かずに。 互いに気付かずに。 其れでも良い。 未だ、時は在るのだから。 いつか云って呉れる迄待っている。 云って呉れる筈は無いのだけれど。 いつか君に云おうと思う。 最期に君だけに伝えたい言葉があるんだ。 最期だから、今は未だ云えない。 君は怒るだろう。 最期に何で云うのかと。 けれど、其れで良いんだ。其れで良いんだよ。 全てを言葉に出来なくて良い。 最期に君に笑ってやれれば、其れで、良い。 終劇 はい、続きです。 又しても訳の分からん方向に行ってしまって申し訳ないです。 前半は花見です。三人のほほんと花見であります。 そして早々に花見を切り上げて(早いよ)雅緋の部屋に場面が移ります。 露斗と雅緋は雅緋の部屋でなんか話す機会が多いみたいです。 何ででしょう・・・? えっと・・・次は多少血生臭くなる・・・かもです。あくまでかもなんで本気にしないで頂きたく存じます。 では、まだまだ続きます。 ええ、マジで。
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