其の時の声はとても小さくて。
少しだけ掠れてて。
けれど、しっかりと声を出して。
初めて聞いた君の声。
あのね、俺は其の時
君を、ずっと守っていこうって決めたんだ。
名残緋雪 露晴
初めて会ったのは、確か長月の終わり頃。
雀澄女姉に手を引かれて部屋の中に入ってきた。
けれど、其の目は何も映してなくて。
其の耳は何も捕らえてなくて。
声も出せないで。
極めつけは雀澄女姉が自分でやったんだって云って。
目と耳を使い物にならなくしたばかりか感情まで封じ込めたんだって。
ぞっとした。
自分の子に其処までやってしまうのかと、正直怖かった。
けれど
当の本人は、既に諦めたのか全く動じてなかった。
只、虚空を見つめていただけで。
其の視線が、ふと俺の方に向いた。
無表情の侭、じっと見つめていた・・・か如何かは分からないけれど。
俺には、そう思えた。
雀澄女姉の子供の名前は、雅緋。
赤い髪に青い目をした男の子。
其の表情から、何を考えているのかは分からないけれど。
俺は其の子と話をしてみたかった。
だから
話し掛けたんだ。
答えが返ってくるなんて思って無かったけれど。
其の子に与えられた部屋に早速行ってみた。
雅緋は一人で其処に座ってた。
俺が入ってきたのが気配で分かったのか、こっちに顔を向けた。
「こんにちは」
とりあえず、俺は挨拶をした。
「俺は露斗って云うんだよ。宜しくね?」
と云って手を差し伸べたけど・・・分かんなかったみたい。
まぁ、見えてないから当然と云えば当然だけどね。
「ねぇ、君の事、"みやちゃん"って呼んでも良いかな?」
何となく、ネ。
そうすれば、親近感が沸くって思ったんだ。
了解も取らない侭、そう呼ぶことに決めたんだ。
色々俺は、みやちゃんに話し掛けたんだ。
家の事、京の事、鬼の事、神の事、人の事。
みやちゃんは只、無表情の侭で動かずに座ってただけ。
其れでも良かったんだ。
其処に居る事が分かれば、其れで。
ふと、みやちゃんが耳を塞ぐような仕草をしたんだ。
可笑しいな。
耳が聞こえない筈だから、五月蝿く無い筈なのに。
「如何かした?みやちゃん」
心配になって声を掛けてみた。
そうしたら・・・・・・―――――
『五月蝿い』
声が頭の中に響いたんだ。
「・・・・・・・・・・・・え?」
五月蝿い?
今、五月蝿いって云ったの?
『五月蝿いから五月蝿いって云ったんだ』
又、響いた。
「今、みやちゃんが云ったの・・・?」
そう尋ねたら。
みやちゃんは小さく、頷いた。
「聞こえないんじゃなかったの?」
『聞こえない』
「じゃあ何で五月蝿いって・・・?」
『・・・聞こえるから』
「矛盾してるよ、みやちゃん」
俺がそう云うと、みやちゃんは少しだけむっとした。
『頭の中に勝手に流れ込んでくる。他人の考えている事が』
其れが、五月蝿い。
みやちゃんは、そう云った。
「そっか・・・其れは大変だね」
『同情なんかしなくて良い』
「そんなつもりは無いヨ。只」
『只?』
「・・・ううん、何でも無い」
此れだけはね。
未だ知って欲しくないから。
此れだけは君に流れ込まないようにずっとしまっておくよ。
「あ」
俺は、大事な事を思い出した。
「一寸忘れ物しちゃったから、取りに行って来るね」
そう云って部屋を出ようとした。
『おい』
そうしたら、みやちゃんに呼び止められた。
「何?」
俺が振り向いたら。
「人の事、勝手に"みやちゃん"って呼ぶな」
其の声はとても小さくて
少しだけ掠れてて
けれどやけにハッキリと
君は声を出した。
其れが何だか嬉しくて。
凄く凄く嬉しくて。
「良いじゃん、似合ってるよ。みやちゃん」
そう云って笑って見せた。
君には見えてないけれど。
もし見えてたら、殴られてたかもしれない。
"何笑ってやがる!"って。
けれどね
其の時思ったんだ。
"ずっと君を守っていこう"って。
君には聞こえないように。
声を聞いた時、今にも消えそうだったんだ、君が。
本当に消えて無くなりそうで。
凄く怖かった。
君はいつか目も耳も治ると思う。
感情も戻って欲しい。
出来れば、君が望んでなかった其の力も無くなれば良いと思う。
でも
多分、力は消えない。
知ってるんだ。
其の力がどんなものなのか。
誰から与えられたものなのか。
雀澄女姉も知ってたから、君の目や耳や感情を封じ込めたんだろうね。
壊れて欲しくないから。
誰よりも壊れやすい君の心を知っているから。
目と耳が治った時
若しかしたら君は壊れてしまうかもしれない。
でも、大丈夫だよ。
俺がずっと傍に居るから。
例え君が壊れてしまっても。
君にどんなに嫌われようとも。
ずっと傍に居るよ。
だから
だから・・・―――――
お願いだ。
君もずっと
俺の傍に居て。
俺が、壊れてしまわないように。
終劇
露斗視点です。
えっと・・・何といいますか。露斗と雅緋、邂逅編です。
出会いはこんな感じです。
此処から露斗のみやちゃんラブvが始まったのです。
きっかけは雅緋の声。恥ずかしい・・・。
雅緋は厳密に言うと耳も目も正常なんですよ。
見ようと思えば見えるし、聞こうと思えば聞く事が出来ます。
でも、彼はしません。
見もしないし、聞きもしません。
あの時声を出したのは只の偶然なんですよ。
本人は出す気無かったんです。でも出てしまったわけで。
てなわけで、未だ続きます。
壊れやすい者同士の珍道中。何があるか分かりません。
ええ、ホントに。
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