決別。再会。
迫り来る刃。流れる血。
人の可能性を奪うということ。

例え此処から先、どれほど血に塗れようとも。

己が意志で歩き始めたのだから。
後悔など言える筈も無い。
そしてぶつかる意思と意志。



闇誘う深淵へ 5
目に映るマルクト兵を造作も無く斬り倒す。 此処に居る全てのマルクト兵を消すように。 自分で考えているのではない。 体が勝手に動くのだ。 今のアッシュに意思は無い。 自我も無い。 言われたことを忠実にこなすだけ。 そうなるように育てられた。 モノとして使えるように。 粗方マルクト兵を斬り、船橋の上へと移動した。 其処で剣に付いた血を振い、鞘に戻す。 軽い金属音を立てて剣が鞘に収まると同時に、僅かながら戻る自我。 ゆっくりと自分の掌を見つめる。 そしてカクンと人形が倒れるようにその場に座り込んだ。 「ご主人様?如何したんですの?おなか痛いですの?」 マルクト兵を斬っている時も片時も離れなかったミュウが心配そうに見る。 それにゆるりと首を振って答える。 何でもない、と。 本当は六神将だなんて知られたくなかった。 そう思う心が何処かにあった。 オリジナルともあんな形で会うなんて考えてもいなかった。 全てが順調に進んでいると思われた。 けれど何処かに歪みが生まれた。 少なくとも、アッシュが自我を持ってしまった時点で歪みは生じた。 自分で考えて行動する。 アッシュは思う。 自分に出来ることを。 六神将としてではなく、アッシュとして出来ることを。 此れから起こるであろうことの為に。 声がした。 何処かで聞いたような声が。 否、先程まで聞いていた声。 自分と同じ声。 違う二つの声。 剣と剣がぶつかる音。 断末魔と血飛沫。 崩れる音と震える声。 「・・・殺した・・・」 断片的に聞こえた其れ。 ゆらりと剣に手をかけた。 斬るか斬らないか。 ほんの少しだけ、迷いながら。 地を蹴った。 「人を殺すことが怖いなら・・・剣なんて棄てろ」 殺したことを恐れたオリジナル。 気を失わせる瞬間にポツリと呟いた。 死霊使いには攻撃をかわされてしまったが、アッシュにとっては如何でも良かった。 「おや、貴方が此処に居るなんて驚きましたよ」 「・・・・・・・・・・・・ジェイド・カーティス・・・」 ジェイドは笑みを崩さない。 迫り来る気配に気を張りながら剣をジェイドに向ける。 笑みが少し崩れた。 「一つ構いませんか?」 言葉を全て聞き取るが早いか否か、珍しく反応が遅れてしまった。 気が付いた時には既に遅し。 顔を隠していた仮面はジェイドの手の中。 朱色の髪が風に泳ぐ。 その下にある翠色の瞳。 「ああ、やっぱりそっくりですね」 ゆっくりと手が顎に伸ばされ上を向かされる。 「・・・・・・返せ」 無表情は其の侭に抗議の声を紡ぐ。 「此れでもっと生気があれば本当に見分けがつかないかもしれませんねぇ」 「返せ」 その声に面白そうにジェイドは笑った。 「隠す必要なんて無いじゃありませんか。折角綺麗な顔をしているのに」 「返せ!!」 生まれて初めて叫んだ。 生まれて初めてまともに表情を崩した。 本気で怒って本気で剣を向ける。 瞬間、赤が舞った。 遅れて襲う激痛。 「・・・・・・!」 「怒りに任せた攻撃なんて大した事無いですよ」 虚空から出現した槍が左肩に突き刺さる。 血が流れ、鼓動が早くなる。 「此れはお返ししますよ。いつまでも見ていたくはありませんからね」 カランと乾いた音がした。 その音すらも遠くで聞こえる。 「少しはあの傲慢なオリジナルを見習いなさい。そんな顔は反吐が出ます」 消えかける自我を感じつつも 動くことさえ侭ならない左腕を邪魔だと思いながらも 動く全てで言葉を否定する。 「お前に言えた事か、ジェイド・カーティス」 自我は殆ど消えた。 痛みだけが今のアッシュを繋ぎとめている。 長くはもたない。 「死を感じることの出来ないお前に、言われる筋合いは無い」 言葉を紡ぐ度に瞳から光が消える。 痛みが遠のく。 手が棄てられた仮面に伸びた。 「・・・・・・最後に一つ忠告しておく」 痛みが消えた。 瞳から光が消える。 仮面が顔を包み隠す。 「お前は世界を何も知らない」 自我が音も無く消えた。 もうジェイドの目の前に居るのは只の人形。 自我を持つことさえ未だ許されない哀れで愚かな人形。 「アッシュ。閣下のご命令を忘れたか?それとも我を通すつもりか?」 声にアッシュは反応した。 仮面からは何も感じ取ることは出来ない。 「何を考えているかは知らんが、下手なことは考えないことだ」 最も、と声は続く。 「お前の自我は閣下によって封じられている事を忘れるな」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 リグレットの命令によって船室に連行される際に、ジェイドはちらりとアッシュを垣間見た。 仮面からは何も伺えないが、アッシュも此方を見ていた。 そして口だけを動かして、空気が揺れる。 皆を連れて早く逃げろ。 消えた筈の自我が 封じ込められている筈の自我が 足掻き出した瞬間だった。 「ご主人様、ご主人様はとっても優しいですの!とっても強いですの!」 「・・・・・・?」 タルタロスの一室で一人休んでいると、突然ミュウがそう言い始めた。 アッシュには何の事だかさっぱり分からない。 「ミュウはずっとご主人様の味方ですの!ミュウは知ってますの!ご主人様が優しいって事」 「・・・・・・・・・・・・・・・」 小さな体を精一杯使って、ミュウはアッシュに何かを伝えようとしていた。 ミュウが何を伝えようとしているのか、アッシュは気付くだろうか。 アッシュはミュウの言葉を素直に聞いている。 そしてポツリと、こう呟いた。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ミュウ・・・・・・」 「はいですの!」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ありがとう・・・」 小さな声で。 赤い髪の少年は青いチーグルに言った。 仮面を外した侭。 ほんの少し。 本当に少しだけ。 笑いながら。 ちなみに。 アッシュに名前を呼ばれた事を嬉しがったミュウが足元をコロコロ高速で転がる姿を見て。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うざい・・・」 なんてアッシュが呟いたことは言うまでも無い。 続く お待たせしました。 タルタロス後編です。 バッサバッサ人を斬り進んでいく姿・・・殺陣は好きなんですが、文章にするととてつもなく難しいです。 とりあえずタルタロス後半終了です。 アッシュ(ルーク)が足掻き始めました。 此処からアッシュ(ルーク)が本格始動です。自分で考え、行動する。 アクゼリュスへと・・・・・・ 次は・・・コーラル城・・・?



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