3.月明り
ふと目が覚めてしまった天津飯は、隣で寝ている3人の様子を確認するように視線を向けた。
しかし、そこにはヤムチャの姿だけ見えなかった。
不思議に思って、餃子やプーアルが起きないように静かに身を起こすと、テントから出た。
姿が見当たらないので、迷わないようにその辺りを適当に歩くと、ふと月明りの下に人影が見えた。
「・・・ヤムチャ・・・か?」
天津飯が声をかけると、その人影は天津飯の方へ顔を向けた。
その瞬間、風が吹いた。昼間結ばれていて、今はおろしている髪がなびき、風とともにもみじやイチョウの葉が舞っていた。
もみじやイチョウ達の中で、月明りに照らされながら立っているヤムチャを、天津飯は無意識に”綺麗だ”と思った。
「・・・あ、天津飯・・・起きたのか?」
好きな人の姿を見て、無表情だったヤムチャの顔が一瞬にして笑顔になった。
「・・・・・・」
「天津飯?」
「・・・あ、あぁ・・・お前こそ・・・起きたのか?」
ついつい見惚れていた天津飯が、慌てて聞き返した。
「なんだか眠れなくて・・・それに、今日は満月が綺麗だから」
ヤムチャの視線の先にある満月は、白く光り輝いていた。その月明りだけでも、辺りがよく見えた。
ふと、天津飯はヤムチャの髪にイチョウの葉がいくつか絡まっているのを見つけた。
「ヤムチャ・・・髪にイチョウの葉がくっついているぞ」
「え?」
「俺が取ろう」
柔らかなウェーブの髪からイチョウの葉をとると、天津飯はその髪に優しく指を通した。
「・・・いつ触っても、さわり心地の良い髪だな」
「そうか?一応、ここに来る前にも家でシャワー浴びて来たけどさ・・・・・・天津飯?」
「ん・・・何だ?」
ヤムチャの真っ直ぐな視線は、今度はどうやら天津飯の三つの瞳に向かっているようだった。
「こうして見ると・・・お前の目って本当に綺麗だよな、三つとも」
左手で照れくさそうにヤムチャが頬をかくと、天津飯の目にその指が映った。
「・・・その指、大丈夫か?」
「え?あぁ・・・少し痛いが、これぐらい大丈夫さ」
指を見せるようにあげると、天津飯はその左手をそっと掴み、怪我をした指に口付けた。
「・・・痛いの痛いの飛んでけ・・・なんてな」
別に意図したわけでは無いだろうが、やや小声の言葉はあまりにも良い声で・・・その上優しく微笑まれてヤムチャは赤くなった。
赤くなった顔を見られたくなくて、ヤムチャはバッと下を向き、やっと聞こえるようなくらい小さな声で言った。
「天津飯・・・キスして欲しいんだけど」
「・・・ヤムチャ?」
「キス・・・して欲しいんだけど・・・」
「あ、あぁ・・・別に構わないが」
「じゃぁ目閉じる事!」
ギュッと自分の服をヤムチャが掴んできたので、天津飯はとりあえず目を閉じた。
ふと優しい感触が唇へと伝わってきた。
首に腕を回してきたヤムチャの腰を天津飯もしっかり抱きしめ、ゆっくりと入って来た舌に自分の舌を絡ませた。
息苦しさに唇を離し、上がった息を整えているとヤムチャは天津飯の首に自分の頬をすりよせてきた。
「・・・・・・もっと・・・・・・」
「・・・どうしたんだ、一体」
「う〜ん・・・月が綺麗だから、かな?」
誤魔化すように笑うヤムチャに、天津飯はやれやれと思いながらもキスをした。
「んっ・・・もっと」
「お前なぁ・・・」
正直言って、天津飯はこれ以上こんなキスしていたら我慢出来ないから勘弁して欲しいと思っていた。
しかしヤムチャは拗ねたように天津飯を睨む。
「何だよ、俺とキスするの嫌なのか?」
そんな上目遣いで睨まれても、煽る材料にしかならない事をヤムチャは知っているのかいないのか・・・
「・・・キスだけですまなくなるぞ」
天津飯がぐいっと顔を顔を近づけると、ヤムチャは熱っぽい視線を向けて微笑んだ。
「・・・・・・良いよ」
月が雲に隠れると、先ほどの明るさが嘘のように辺りは暗くなった。
「んっ・・・ぁ」
天津飯が手や舌を滑らせるたびに、ヤムチャは押し殺すような声で啼いた。
「どうした?いつもはそんなに声をおさえないのに・・・」
「え?・・・だ、だって・・・一応・・・そ、外・・・だから」
暗闇に慣れてきた目に映るヤムチャは、少し視線を逸らしながら呟いた。
自分から誘ったのに恥らう姿が可愛くて仕方が無い天津飯に、少し悪戯心が芽生えた。
「そうか・・・それもそうだな」
そんな事をしれっと言いながら、天津飯はヤムチャの弱い所を的確に攻めたてた。
「ゃっ!あっあっぁ・・・ぁん・・・んっ」
いつもよりも暗くてよく顔が見えないのが残念だったが、その甘い声だけでも天津飯には充分だった。
必死に自分の首につかまって快感に耐えようとするヤムチャもまた可愛くて、天津飯は思わず手に刺激を与える手に力がかかった。
「あっ・・・やぁ、んっ・・・ぁあ・・・ちょ、ちょっと・・・てん、し・・・ぁっん・・・はぁ、はぁ・・・て、天津飯」
「な、何だ?」
ヤムチャに問いかけたその時、雲の陰から月がそっと顔を出した。
あたりが薄っすらと明るくなった為、天津飯は手の動きを緩めてヤムチャの耳元で囁いた。
「顔を・・・上げてくれないか?」
しかし、その囁き声に一層ヤムチャは恥ずかしくなり、天津飯の胸に顔を押し付けたまま首を勢いよく横に振った。
「・・・・・・俺の事を、見てくれないか?」
ヤムチャは、優しすぎる囁き声にまで感じてしまっていたが、その言葉で強張らせていた身体の緊張を解いた。
そして天津飯が両手でヤムチャの両頬を包むと、ゆっくりと顔を上げた。
赤い頬、快感に耐える為に流された涙、潤んだ瞳、艶のある唇・・・月明りに照らされたその全てを、天津飯は「綺麗だ」と思った。
「本当に・・・ヤムチャは綺麗だな」
愛おしそうに髪に指を絡めながら、天津飯はヤムチャの頬にそっとキスをした。
「お、俺は・・・別に綺麗なんかじゃ・・・」
ヤムチャの抗議の言葉は、最後まで紡がれる事が無かった・・・。
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