闇に居るのは心地よいと そう呟いた君を見て
そんな訳ない、と引っ張り出したのも一時の夢幻
悲しみに浸る気だるい快感を知ってしまった今、
僕にできるのはただそれだけで――――
宵闇に光を 故に潤いを
真っ暗な世界――月さえもが厚い雲に隠れたルネスの夜。
月が必死に夜を照らそうと、雲ごしに薄い光を放ち続ける。他の雲に比べて、そこだけがすこうし輝いて見えた。
そんな空を見つめるのは、一人の若き女。
大きな窓を開けて、窓の手すりに両肘をつき、目をぼやりとさせながら見つめ続けている。
そんな事をしていたら、脳までもがぼやーっとしてきて、意識が薄れてきたのか、目がだんだんと重くなってくる気がする。
これが眠気なのだと気付くのにもまだ時間がかかりそうだった。
耐え切れずに目を閉じて、静かに吹いてくる風に身を任せたら、いきなり手をつかまれて窓から引き離された。
「何してるのエイリーク、危ないよ。」
闇に慣れた目と、その聞きなれた声を聞き、エイリークはすぐにその声の主を特定した。
「…リオン」
リオンと呼ばれた青年は、心配気をした顔を、ふっと少し微笑ませた。
「…エイリーク、窓の傍で何をしていたの?」
「本を読んでいたのですが、飽きてしまって…。ちょっと風にあたろうかな、と思ったのです」
「飽きる、って。それじゃエフラムみたいだよ?エイリーク」
「ふふ、そうですね」
二人は逢った窓際でそのまま話しこんでいた。
今日はリオンがルネスに遊びに来ているのだ。しかも、泊まりで。
「そう言えば…リオンは何故ここに来たのですか?リオンは確かもう兄上と部屋に…」
「エフラム、寝ちゃったんだ。エフラムは凄い寝つきがいいから。」
それを聞いた途端、エイリークは目をぱちくりさせた。
「もう、兄上ったら…。それでリオンも暇になったのですね?」
「うん…、そう言う事になるかな」
エイリークの双子の兄エフラム。エフラムと、エイリークと、リオンとの三人は仲が良い。
このお泊りに至ったのもこの仲だからだ。この仲の良さをここルネスの王もリオンの地、グラドの王も知っている。
なので、幾分かあっさりと許してくれた、と言う事に至る。
なのに、この貴重な一緒に居る時間をさっさと寝て過ごすとは何事なのか。
リオンはエフラムの部屋で寝させて貰うはずなので、こう言う時こそ男同士の友情の話…だと思っていたエイリークは
この常識知らずな兄の行動に少々頭をかかえた。
「あ、気にしなくていいよエイリーク。エフラムの寝つきがいいのは前から聞いて知ってたし…。」
「でも、兄上ったらこんな時まで…」
まだ顔をしかめて口をへの字にしたままのエイリークを見て、リオンが言った。
「早寝早起き、って言うし。寝かせておいてあげようよ」
「リオン、兄上は決して早起きではありませんよ?」
「…じゃあ、寝る子は育つ、かな」
リオンの言葉に、ぷっ、とエイリークが吹き出す。そしてクスクスと笑い出した。
「な、なんで笑うの?」
「だって…リオンが兄上を子供扱いしてるものですから」
「こんなの知られたらエフラムに怒られちゃうね…。」
そして、二人で笑った。楽しい、時間だった。
「リオン…。夜は好きですか?」
「え?なんでそんなこと、聞くの?」
いきなり唐突に聞き出したエイリークに、リオンが言い返す。
「…だって、夜は…昔は怖かったですけど、今は心が穏やかになるから好きです。
そんな風に、見方次第でいくらでも変わっていく夜は不思議だと思います。
だから、リオンはどんな風に見えるのかな…って思って。」
エイリークの考えを聞き、リオンは二回ほど頷くと、ニッコリ笑ってこう言った。
「…僕も、夜は好きだよ。確かに心が落ち着くんだ。でも…」
「でも?」
「…なんでもないや」
おっと、とリオンが口走ろうとした言葉を飲み込んだのがエイリークは気に掛かった。
でもリオンはなんでもないと言って一向に教えてくれなかったのが、ちょっと残念だった。
そのしゅん、とした顔を見て、見かねたリオンは意を決して言った。
「でもねエイリーク。君には朝日が凄い似合うと思うんだ。」
「朝日…?」
「うん。エイリークの綺麗な髪の毛が一番光るのは朝日に照らされた時だって思うんだ。
だって朝日は、太陽が夜露を照らして一番輝きを発する時だもの。
だから、僕は…エイリークが一番綺麗に輝いて見える朝日が似合うと思うんだ。」
その言葉にエイリークがぽっと頬を染めた。暗闇の中では分かりづらかったけど、闇に慣れた目ではなんとなく分かった。
「もう…冗談は止めて下さい。」
「本当だよ。さっき言いかけたのがこれだったんだ」
「…本当、ですか?」
「うん。」
ニッコリと笑んだリオンの顔を見て、エイリークもつられてはにかむように笑う。
ありがとうございます、と呟いて、エイリークはリオンの髪を見た。
「では、リオンには月の光に照らされると綺麗です。紫の髪が、よく映えて見えます…。」
「有難う…。でも、それじゃあ僕たちはまるで正反対みたいだよ」
「あっ、そうですね…。でも、月と太陽がひとつになる時はあるって聞きました。太陽に月が重なって、
とっても神秘的な光景になるとか…。それって、素敵だって思います」
そうだね、とリオンが言い、ゆっくりと月の方を見た。
月は厚い雲が流されたため、今は何もその光を遮っていない。とても、綺麗な光を放っていた。
「…やっぱり、月夜の下のリオンは素敵だと思います。」
そう呟き、エイリークはリオンの手をそっと取った。
「エイリーク…?」
頬を赤らめ、慌ててリオンがエイリークの方を見ると、エイリークはまだ月を見ていた。
なんだかそれを止めるのは駄目な気がして、少しだけ手に力を入れて、握られた手を握り返した。
初めて握ったエイリークの手は小さく、か細く、冷たい。
自らの手も冷たく、そのひやりとした感触を競い合うようだった。
でも、だんだんと暖かくなっていく感触が、とても心地よかった。
それから突然、ひゅう、と冷たい風が吹いてきた。
「きゃっ!寒…っ!」
「あ、ごめん、気付かなくて…はい」
リオンが自分のマントをはずし、エイリークに羽織ってやった。
「あ…有難うございます」
「気にしないでいいよ。」
マントは暖かくて、ほんのりリオンの香りがした。
両手でぎゅ、とマントを引き寄せて、その香りに浸るようにする。その様子を、穏やかに微笑みながらリオンは見守っていた。
月も綺麗でずっと見ていたいけど、君の事も見ていたい。
瞳だけで、リオンはそう語りかけていた。
しばらくして、月も傾きかけた頃、エイリークがはっとした。
「あ…そろそろ、戻らないといけませんね。」
「そうだね…戻らないとね。」
リオンも、いつのまにか時間が過ぎていたことに気付き、ハッとした表情をした。
「これ…有難うございました。」
そう言うとエイリークが借りていたリオンのマントを返す。
それを受け取り、リオンは少し微笑んだ。
「もう行かないと、エイリーク。僕も行くから。エイリーク、ちゃんと寝なきゃ駄目だよ?」
「はい。ちゃんと寝ます。リオンも、兄上の寝言で寝付きにくいかもしれませんが、ちゃんと寝て下さいね」
「あはは、エイリーク、エフラムに失礼だよ」
「お互い様です」
その瞬間、何処かの部屋からくしゅん、とくしゃみがしたのは気のせいだっただろうか。
「じゃあ…リオン」
「また明日ね、エイリーク」
手を振って見送るリオンを名残惜しそうに何度も振り返って見ながら、エイリークは自分の部屋へと入っていった。
一人廊下に残されたリオンは、エイリークのぬくもりが残るマントを、自らの頬へとすり寄せた。
ほんのり、エイリークの香りがする。
「…これじゃあ、つけられないよ…」
愛おしそうに頬にすりよせたマントに、軽く唇を寄せて、目を瞑った。
今日のことを、このぬくもりを忘れないように、頭に今を刻みながら。
月の光は、未だに、廊下にたたずむリオンを優しく照らし続けていた――――
あとがき。
リオン×エイリーク、ほのぼのを目指してみました。
でもほのぼのにするとラブッ気がなくなるなあ…、そこが私の弱点…(え
実はこれ最後のほう修正させて頂きました。ちょっと、雰囲気壊すしネタバレになるので(汗
しかし、そうなると必死で英和辞典をひいた意味がなっ…(ry
次回はラブラブ目指したいなあ…。シリアスの可能性高いけd(強制修了
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