アナタノ、トナリ



あなたの隣は安心します…。

だから、一緒に、居たかったのに…






アナタノ、トナリ






「お兄ちゃん…」
ぽてぽてと、小さな足を小さく動かし、竜人ミルラがエフラムのもとへ歩み寄ってくる。
「どうした。ミルラ」
ミルラがエフラムの腰にはりついたところで、エフラムはその小さな少女を見下ろした。少女と言っても、本人曰く1200歳と言うが――外見ではどうしても少女にしか見えないのだが。
ちなみに、前はエフラムと普通に呼んでいたのだが、最近は「エフラムがエイリークと仲良くしているから羨ましい」と言い出して、兄妹だから仕方ない、となだめたが結局おねだりに勝てず「お兄ちゃん」と呼ばれている。
それに少々気恥ずかしいのと、ちょっとそれで呼ぶのをどうかと思う気持ちに駆られたが、今はミルラの話を聞く事にした。
頬を少々赤らめて、精一杯こちらを見上げるミルラ。何か言いたそうにしているのが分かった。ずっと彼女に見上げさせている訳にもいかず、エフラムは腰を折り前屈みで自らの膝に手をつけ支える形をとった。こうすると自然にミルラとの顔の距離が近まり話しやすいし、何より面と面をあわせて話せる。けれども、まだミルラは少々此方を見上げる形になっている。身長差というものは厳しいものだ、とエフラムはこそりと思った。
もじもじ、と手をいじるミルラをじっと見つめ、彼女から言い出すまで待つ。決して焦らす事はしない。
元々ミルラは自分以外にはあまり懐かないし、言葉数もどちらかと言うと少ない方だ。無理させてはいけない、と言う今までの彼女の言動からも考えて、エフラムなりの思いやりのつもりだった。
「あの…お兄ちゃん。お願いがあります。」
「どうした?」
ニコ、と唇と目元で微笑む。すると少し緊張が解けたのかミルラは手いじりを止めてじーっと此方を見つめてきた。
エフラムは無言で言葉を待つ。
「闇の樹海で…私はおとうさんと一緒にいました。夜寝てる時も、ずっと一緒でした。」
「ああ。」
何を言いたいのかと気にしつつ、耳を傾け続ける。
が、それは次にミルラが発した言葉によって変わる。



「だから…お兄ちゃん。夜…一緒に寝てくれませんか?」



「!」
顔を朱に染めてガクッとずっこけるエフラム。が、すぐに反ば無理矢理に冷静を取り戻し、ミルラに諭す。
「ミルラ、気持ちは分かるが、流石にそれは好ましくない。特に、この行軍中ではな。」
「………」
ミルラは、ふっと――とても哀しそうな顔をした。
エフラムは、妹にせがまれると断れなくなってしまう。
つい最近、ミルラに頼まれごとをされた時にも、彼女が去った後に思わず「俺は妹に弱い性格なのかもな…」と漏らしたほどだ。
が、今回はそう言うわけには行かない。
その表情につられて少々哀しい顔になりそうだったが、堪えて、言う。
「そんな顔をするな。」
ミルラは相変わらず哀しそうな顔をしたままだ。
うーん、と頭を捻る。どうしたら彼女の機嫌をとれるだろうか。…少々悩んだ末、ある考えが思いつく。
「そうだ、今度エイリークにあったら、あいつに頼んで見るといい。あいつとなら、問題ないだろう。」
その瞬間、ミルラが目を丸くした。
「俺とミルラが兄妹なら、エイリークとミルラは姉妹だからな。それでどうだ?」
駄目だったかな、と心の中で呟きつつ、ミルラの様子を窺った。
「はい…そうしてみます。ありがとう、お兄ちゃん。」
どうやら納得してくれたようだ、と思いエフラムはひとつ息をつく。
ミルラはその後すぐにまた何処かへと歩いていった。
何処にいくのだろう、と思いつつ、自らも今後の打ち合わせをする為に皆の元へ戻っていった。






―――それから数日後。数日前の会議で話された通り、戦いは始まった。
今回の作戦は本軍が城門を制圧し、増援が来ない様に、守備部隊を増援討伐にまわすというもの。
そして、エフラムは本軍にいた。
「行くぞ、俺に続け!」
槍を構えたエフラムが敵を薙ぎ倒す。槍を円を描く様に振り回し、次々と敵を巻き込み蹴散らす。
後ろにはエイリークが居て、彼女もまたそのレイピアと呼ばれる細い剣で敵を突き刺していった。
本軍はそのままサクサクと進み、既に敵将も倒された頃。
「…ふう。これでいつでも制圧出来るな。増援部隊の方はどうだ?」
馬を走らせ、ゼトが此方に辿り着くと、ばっと馬から降りて伝える。
「はっ。増援部隊の方は、守備専門を多く配置した為に苦戦しているようで…」
「そうか…じゃあ騎士数人と、俺が加勢しに行く」
「はい…?!」
ゼトが思わず目を丸くする。エイリークが慌てて割って入った。
「あ、兄上?!お待ち下さい、制圧は…?!」
「もういつでも出来る。帰りは騎士に同乗させて貰うからすぐ帰ってくるし、心配するな」
「しかし…」
これが俺のやり方だ、と主張すると少々つっこまれはしたものの反論が収まったので、エフラムはさっさと行こうとする。
が、ふと回りの違和感を感じる。
――――この違和感は…と思い、その理由を理解すると、エイリークに向かって問う。
エイリークはエフラムの行動にまだ顔を訝しげにしていたが、そんなの構わず聞いた。
「…ミルラは何処だ?」
「え?…そう言えば配置を兄上は知りませんでしたね…ミルラ殿なら、守備が高いので増援部隊摘発の方に…」
「何?!」
いきなりエフラムが叫んだので、思わずエイリークと回りの者は驚愕してしまった。が、回りも気にせずエフラムは走り出す。
きょろきょろと回りを見渡しているかと思えば、なんと天馬に向かって走り出した。
「ターナ!」
「え、えっ、なぁに、エフラム?」
「天馬に乗せてくれ。今すぐ増援部隊摘発の方に向かってくれ!!」
次の瞬間にはもう、白い翼が地に舞い、エフラムはターナと天馬と共に空に飛び立っていた。






「ミルラ!ミルラ、何処だ?!」
砦周辺へと辿り着いたエフラムは、急いで走り回りミルラの姿を探した。
目の前に、ばあっと敵が剣を構えてエフラムに襲い掛かってくる。
「どけ!邪魔だっ!!」
襲い掛かろうとしていた敵を槍で思い切り薙ぎ倒す。エフラムの攻撃で敵はいとも簡単に倒れた。
エフラムは更に走り続け、草を掻き分け、風を切り、ミルラの姿を探す。
「ミルラ!」
それから数分もせずに彼女の姿を見つけた。何度も名前を呼んでみたが、ミルラはこちらを向こうともしない。何故か、酷くボーっとしている。目がもやもやとしていて、目の前もぼやけているのではないかと推測される。
急いで近寄ろうとした時に、ミルラの背後にソルジャーの姿が見えた。竜に変身していないミルラは、守備も低いし、脆い。攻撃を一発でも受ければ死ぬか――致命傷に成り得る可能性が高い。 ゾクッ、と背筋に寒いものが走る。
ぐ、と思わず歯を食いしばり、足を無理矢理にでも早く動かす。
ミルラ目掛けて、ソルジャーが槍を突き刺そうとする。



「ミルラ――――――!!!!」



ザシュッッ…!!と音にならない音がして、血が飛び散った。
――血は、敵のソルジャーのもの。
エフラムはミルラを左手で抱え込むようにして身を屈めている。
右手には、振り回した槍と、槍に付着した血と、すぐそばに敵のソルジャーが倒れていた。
「…みねうちだ」
エフラムが呟く。
後ろに加勢に来た仲間達が、倒れたソルジャーを治療すると同時に、捕虜として運んで行った。
ふう、と一息ついて抱え込んだミルラを見ると、ミルラはどうやら気絶しているようだった。
「全く…心配、させるな…」
ぼんやりと呟くと、ゆっくりと制圧の為の旅路を急いだ。



「ミルラ。さっきはどうしたんだ」
「…お兄ちゃん。」
戦いも無事終わり、若葉の茂る緑の樹の下に――エフラムはミルラを呼び出した。
ミルラはしゅん…と落ち込んでいるような顔をして、下の方に俯いている。
「…怒ってないから、話してみてくれ」
「……」
ミルラを木の下に座らせ、エフラム自身もそのすぐ隣に座りこんだ。そして、今だ俯いたままのミルラの方を見た。
しばらく待っていると、ポツリ、とミルラが話し始めた。
「…私…戦争中に、集中していませんでした。エフラムが怒っても無理ないです…」
「…ミルラ…決して怒ってないぞ、俺は…」
苦笑しながらエフラムは呟いた。
「でも、私…」
「じゃあ、ミルラ。なんで集中していなかったんだ?」
ミルラが自分を責めるので、エフラムは話題を変えた。
「…瞼が重くなって…頭がもやもやして…すごく、体に力が入らなくなったんです…」
そこでエフラムはピンときた。
「ちょっと待てミルラ。それはまさか眠かったのじゃないか?」
「………」
「うんうん、よく分かるぞ、眠たい気持ちは。俺も良く勉強をさせられた時にそう言う状態になったもんだ」
エフラムは腕を組み、うんうん、と一人心地に頷いた。
「エフラムも…ですか?」
「ああ。まあ俺はただ勉強が退屈だったからだが…まさかお前、寝不足…なのか?」
「ねぶそく……そう、かもしれません…。」
ミルラが目を丸くしながら答えている。エフラムは続けた。
「ミルラ。夜、ちゃんと寝ているか?」
「…眠れませんでした。」
「! 何故だ?!…寂しいからか?エイリークのところに行ったのではなかったのか?」
エフラムは吃驚しながら問い続ける。ミルラは、少々口ごもったが、ゆっくりと喋りだした。
「…行ってません…何故か、行く気分になれませんでした…。」
「…ミルラ。」
何故、ミルラは寂しくて寝れなかったのに、自分の進めたようにエイリークのもとへ行かなかったのか…
(まさか、自分と一緒ではないと駄目…とか――いや…そんな事は……。)
一瞬考え付いたものを、ふるふると散らした。
ミルラの考えている事はよく分からない。けれども、ミルラは寂しがっている。
色々と最善の策を見出そうと、エフラムは無い頭を回転に回転させ考えた。
考えるのに必死になっていると、不意に、肩にトン、と少しの重みがのしかかるのを感じた。
「…?」
何だと振り向いてみると、そこには規則的な呼吸をし、すやすやと眠っているミルラの姿。
―――そんなに眠たかったのか…というのと、この体制のダブルパンチでエフラムは驚きを隠せず、硬直したままだ。起こしてはいけない、と思いじ――っと体を硬直させたままにしていたら、ミルラの体は段々と前のめりになっていき、
ついには、肩から頭がずれ、エフラムの膝に落ちた。
「――――ッ?!」
俗に言う、『膝枕』の状態になってしまった。
わけもわからずエフラムは慌て、柄にも無く頬を赤らめてしまった。動くわけにもいかず、けれどもこの状況が何故か顔から火が出るほど恥ずかしい。別に柄にでもない事をしている事ではなく…エフラム本人にとっても良く分からないが、とてつもなく顔が火照った。
だが、目の前で無防備な寝顔をしているミルラを見ると、段々と焦りが治まってきた。
気が付いた時には、ミルラの頭を撫で、まるで寝かしつけているような格好になってしまった。
「………」
トクン、と優しく、けれどもとても暖かく、胸が鳴った。
この感覚がなんだかは良く分からなかったけれど。そこに涼しげな風が吹いて、なんとも心地よかった。
ミルラの髪はさらさらとしていて、指を絡めるとするりと落ちていく。長い髪の毛に、背を屈めて、自身の行動が赴くままにひとつ、口付けを落とす。
ミルラがしばらくして起きるまで、エフラムの頬は純粋にほんのり赤まっていたと言う。
エフラムが自らの感情に気付くのは、まだこれから。



(……夜寝るのは駄目でも、昼寝を一緒にするのはいいかもな…)
そんな事を思いつつ、二人の空間を、ゆっくりと風が吹いて去っていった。










あとがき。
初!エフミル小説です。
エフラムはいつもサブとして使っていたので、今回主にして描いたのですが結構難しかったです。
エフラムの鈍感らしさを出しつつラブッ気を…と思うと難しい難しい(笑。
ほのぼのに仕上げたつもりでしたが、どうだったでしょうか?…拍手ででもちょこっと、感想聞かせてくれると嬉しいです^^;



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