契り






「…ッ!!!!!」
いきなりの彼女の異変に、気付かぬ者はいなかった。
「マーテルッ?!!!」
「姉さま?!姉さま―――っ!!」
がくんといきなり地にひれ伏した彼女は、我が身に手を回しがたがたと震えている。
今まで一度たりとも聞いた事のない、悲鳴のような声を上げていた。
ユアンは必死でマーテルの顔を窺うと、マーテルの顔は真っ青に染まっていた。
この表情から、どうやっていつもの彼女の微笑みを感じるだろう?
目を閉じ、震えるマーテル――彼女は強烈な痛みに耐えていた。
その詳細など、誰もが知るよしもなかった。その病気の事など、原因が何かなど、誰も―――。



「…永続天使性無機結晶症…」
とにかく彼女の安静に出来る場所に移動した一行は、その病名を調べ上げたクラトスの口から発せられたその病名に唖然とした。
「…なんだ…それは…聞いた事がないぞ」
「百万人に一人の確率で起こる、クルシスの輝石の拒絶反応だそうだ」
「なんだと…」
――永続天使性無機結晶症。全身が輝石化してしまう輝石の拒絶反応。
まず皮膚組織が輝石化し、次に内部組織、最後に中枢が輝石化し、その後死に至る――
クラトスはまとめてそう説明した。その説明が終わった時には、真っ青に顔を染めたユアンとミトスの姿があった。
「そんな…姉さま――姉さまは死んだりしないよねっ?!ねえっ!!」
そう言ってミトスはクラトスに縋りつかった。クラトスは無言でただミトスに揺すられ続けた。
それと正反対に、ユアンはただその場に立ち尽くしていた。
しかし彼の表情には――明らかに焦りが、動揺が、隠せずに出ていた。



――マーテルが死ぬ…?



ユアンは、マーテルの休んでいる部屋を訪ねた。今はもう落ち着いたのであろう。
しかし表情はあの笑顔の影すらなかった。
…自分がどうなるかを知っているのだろうか?
「…ユアン、聞いたわよね?私がこれからどうなるか…」
ユアンの予想は的中した。一番避けたい事だった。
これ以上、自分がどうなってしまうのか――彼女には知って欲しくなかった。しかし無理がある。
今は服に隠れているが、真実、彼女の体には輝石の拒絶反応のしるしがありありと出ているはずなのだ。
「…マーテル」
なんて声をかければいいのか、ユアンには分からなかった。
もともと、人を思いやる事には免疫がない男であるが故、そう――彼女に出会うまでは…。



自分をこんな思いにさせるのも、
自分がこんなに君の事を思って溜まらなくなるのも、
君の事ばかりが頭の中を渦巻くようになったのも―――



君に、出会ってから…



…死なせはしない。
彼女は今、唯一の自分の大切な人――そして自分を強く思ってくれる人。
失いたくない。――いや、失いなどさせるものか。
「私が、君を助ける」
「…ユアン、でも、私は…もう、」
「諦めたら終わりだ…君は死ぬべき人物ではない」
そう、彼女は愛されているのだ。周りにも、弟にも、そして――私にも…
「まだ、君はここにいて生きているのだから」
「…有難う…ユアン…」
そう言って、少しだけ微笑むマーテル。
その微笑みはいつもの彼女の微笑みとはまるで違うもので。
それでも、今の彼女に出来る必死の笑顔だった。
「約束する、必ず君を助けると」
「――私も約束します、必ず生きて…貴方と一緒にいると」
「約束の契りを――」
そう言って、ユアンは彼女の手に口付けた。口付けた彼女の手にはぬくもりがあった。
柔らかくて、暖かくて、かけがいのない――
輝石なんかに、このぬくもりを奪わせて溜まるものか。
そう思いながら彼女の手をとる彼には迷いなどなかった。



必ず助けてみせる、と。
その願いを叶えるのは自分自身。神など信じるのも結構だ。
自分が動かねばならぬ…と。



この思い、いつか途切れようとも。
今ひとたびの、この契りは永久のしるし―――



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