ずっと、素直になりたかった。
あんたの行動に悩まされつつも――本当は凄い心臓が張り裂けそうになる位ドキドキしてた事。
あんたの事、バカバカ言ってるけど…本当にバカなのはあたしだって事。
もっともっと、沢山素直になれなくて、言えなかった事がある。
バカみたいに、じらして、隠して…あんたの事なんて認めようとしなくて。
それでも、心の奥では…
ずっと、ずっと…



あんたが、好きだって言いたかった。






素直になりたくて






日が橙に染まる頃に、ロイド達はとある宿に泊まる事にし、休息を取っていた。
戦っている時とはうってかわって、のんびりとした時間が過ぎていく。
そんな時間に暇を持て余す者は少なくない。
それぞれ、買い物に出て足りない物を調達したりすれば、自分の欲しい物を買いに行ったりする者もいる。
自分の剣を手入れしたりする者だっているし、稽古する者、勉強する者と――
忙しそうに見えるけど。
それさえ終われば、暇だと言う事に変わりは全くなかったのだ。






テセアラの神子ゼロスは、自分の剣の手入れを終えた所であった。
ふう、と一息ついて、手入れされ綺麗に光を反射する剣を鞘にしまい、すくっと立ち上がる。
「…終わったなぁ…暇になっちまったぜ」
そう言ってぼんやりと空を眺めた。夕食にはまだかかりそうだし、かといってこのままボケーッとしてるのも自分の性に合わない。
こんな時は…、と思ってゼロスはニヤリと微笑む。
「ナンパだよなナンパ♪」
女性に手当たりしだいに話しかけてはアイテムを貰う。
これからのための食材が手に入れば、これとないレアアイテムも貰えたりするので仲間には批判されつつもなかなか役立っている。
暇な時にこそ、この美貌と言う能力を使わない手はないとゼロスは思った。
そうして、町中の方に足を踏み入れようとすると。
「…お?あの見覚えのある後姿は…」
目の前に歩く一人の女性。他とは一風変わった服装で、とても魅力のある体に後ろで一本に縛られた黒髪。
ゼロスがその後姿を見間違える筈はなかった。
その女性にそーっと気付かれないように近づき、腕を上げる。彼女を無造作に包む腕を。
「いよ〜う、しいな!!」
「うわぁっ!!い、いきなり何すんだいゼロスッ?!」
ゼロスの全く予想通りの反応。
しいなとこうして話す(?)事はナンパよりも…実は一番彼が楽しみにしている事だったりするのだ。
この反応を毎回のように繰り返すのだ。これだから止められない、とゼロスは思う。
「あ、あ、あ、あんたねぇ!!ここは街中だよ?!だからいい加減離しなっ…!!」
「…ふーん。街中じゃなきゃ良いんだな?」
そう意地悪っぽく呟いて、それからニヤリと面白気に笑う。
「…はい?」
そう困惑の意を返したしいなは、なんだかゼロスが決して良い事ではないものを考えてるのだと直感した。
いや、この彼の顔を見ればすぐ分かるものかもしれないのだが。
「あ、はいっつったね〜?いよーし、OKって事だよな?ww」
「は?!いや、これは違っ…」
「もう弁解は遅いもんね〜♪ささ、レッツゴー♪」
そう元気良く叫んだゼロスは、しいなに回していた手をしいなの肩に移動させ、
しっかりと固定したのを確認するとずんずんと歩を進めていった。
勿論、しいなも共に、だ。
「ちょっ…ちょっ…何処に行くつもりだい?!」
「いや、しいなが良いっつったから人気のない所ww」
そう言って意地悪気を残しながらもにこやかに笑う。
その表情に一瞬うっ、と思ったものの、彼の言った言葉の真意をなんとかしなければならなかった。
「誰も良いって言ってないよ!あれはあんたが聞き間違えただけでっ…」
「気にしない気にしないwささ、行こーぜマイハニーw」
そのままゼロスにじらすにじらされ、結局人気のない所までしいなは連れて行かれてしまうのだった。






「…ここは何処なんだい?」
「町の裏の広場って所かねぇ?裏とあって人気もないにこしたことねぇなぁ♪」
そう楽しそうに叫びながらまわりをくるくると見回した。
しいなはそんなゼロスを見て、わなわなと体を震わせていた。
ここまで来ると、しいなの意識の反面に怒りがふつふつとこみ上げてくる。
「ゼロスッ!!あんたさっきから何考えてるんだい?!あたしを右往左往に連れまわしてっ…
いい加減にしないと怒るよ?!!」
…怒るも何も十分キレていると思う。
「いや、別に暇だったしさ〜、お前構ってると俺様超楽しいし」
「なっ、ばっ、」
不覚にも彼の言葉にときめいてしまう。
思わず声も空回りし、顔が赤いのも――どんどん隠せなくなってきた。
でも、ここで彼の波に流されるわけにはいかなかった。
ぶんぶんと首を振り、もう一度キッとゼロスを睨みつける。そのしいなの顔に、ゼロスは少したじろいだ。
「あんたは楽しいかもしれないけどねぇ!!
あたしはまだ買出しの途中だったし、まだなんにも買ってないから何もすませてないし!
あんたに構ってる暇はあたしにはないんだしっ…!!」
…しいなは言葉が止まらなくなって来ていた。正論もあるけど、どんどん…おかしくなってくる。
「あんたはっ…」
こんな事言いたくないのに――そんな事まで、言葉に出てくる。
「あたしにとってっ…」
もう、駄目だ、止まらない――



「迷惑なんだよっ…!!」



その途端、ゼロスのへらへらとした表情が――強張った気がした。
大きく目を見開いて、そしてゆっくりと…目を、堅く閉じた。
「…そうかよ。悪ぅございましたね」
そう呟く彼の顔が、ひどく傷付いていた事。それを、あたしは見てみぬふりをしてしまった。
そして、彼を傷つけた言葉を放ったあたしの口がまた、余計な事を言い出す。
「そ、そうだよ!あんたみたいにふざけてて、おちゃらけてる、軽い奴なんかっ…」
ひどく放たれた言葉。彼に突き刺さる言葉。
しかし――それを聞いたゼロスは、唇をくっと噛むと、しいなに近寄ってきた。
「…軽くなかったら良いわけ?」
「…え」
問いかけるゼロスの目は――こんな近くで見た事ない、まっすぐな目だった。
とても、真剣なまなざしだった。
「軽くなかったら、俺様はお前といてもいいのかよ?」
その問いを、一瞬――嘘だと思った。
でも、彼の瞳が。まなざしが。
嘘じゃない…と教えてくれていたのに。
それなのにあたしは――ここから離れずにはいられなかった。
地を蹴り、素早くしいなは走り出そうとした。ゼロスに背中を見せて、よく分からないこの場から去ろうと。
でもそれは、ゼロスは許しはしなかった。
強く力を入れてに掴まれた腕。まぎれもなく、ゼロスに引き止められていた。
「いっ、痛っ…!!」
「逃げるなよ、しいな」
逃げるなよと言われても――しいなは困り果てるばかりだった。
臆病な自分が蘇ってきて。今すぐ、ここから離れたくてしょうがなかった。
そう考えながら、ふいとゼロスから目を逸らした。
「…逃げるなよって言ってるだろ」
ゼロスの呟きが聞こえた後――視界からふっとゼロスが消えた気がした。
それなのに、強く掴まれる腕と、そして。
首筋に感じる異様な感覚。
「…ッ!!!」
どん、と音がした。
しいなが全力の力を込めて、ゼロスを突き飛ばしたのだ。
間近に感じた吐息と、あの異様な感覚にしいなは怖くなった。
ぶるっと体を一度震わせた後…しいなは一目散にその場から立ち去った。
「…チッ」
残されたゼロスは、自分の予想外の行動と、しいなが突き飛ばす際に触れた自分の肩の痛みと。
そして――何故、今更ムキになってしまったのか…そんな事を考えながら後悔していた。


一方、しいなは――あの場から離れた所で、ぱたりと座り込んでしまった。
気が緩んだ途端に、体中から火照りが、そして――震えと、涙が止まらなかった。
「なんっ…で…」
今思い出しても嫌になる。
一人で怒って、一人で驚いて、一人で泣いて…。
意識の中から消え去りたい位――そんな風に思いながら…ただ、力なく座り込んでいた。






「…………。」
「あ、おかえりゼロス!」
皆はもう宿の部屋に居て、暇つぶしに色々話したりゲームをしたりしていた。
案の定ロイドは一人文字のずらずら書かれた宿題に頭を唸らせていたが。
そこに帰ってきたゼロスは、いつもは何をしているのか、部屋中の仲間に話しかけて喋りまくっていたのに。
無言で何も喋らず、何かがぬけたような表情をして、部屋の隅に座り込んだ。
「…ゼロス、どうしたの?」
そうジーニアスが話しかけたが、ゼロスは全くの無反応だった。
皆は何がなんだかわからず、問いただしても反応しないので、ひとまず様子を見ることにした。
「あら…そう言えばしいなは何処かしら?」
リフィルがそう呟いた。
「見てないよー」
ジーニアスが最初に答え、他の皆も知らないと言った。
それを聞いた所で、リフィルは少し気になっている事を呟いた。
「…この辺には強いモンスターが出るから、あまり遠くに行くと危険だと言っておかなかったわ…」
「何?!!」
一番最初に叫んだのはゼロスだった。
どうした、とゼロスに声をかけるが、ゼロスは聞いていないようだった。
「…確かっ…あっちは…」
しいなの逃げていった方向。確かあっちは、町から離れていく方だった。
そう確信すると、ゼロスはチッ、と舌打ちして――しいなの逃げた方を目指し宿と飛び出た。
「ちょっとどうしたの…ってゼロス――!!」
その声も届かず、ゼロスはすぐに見えなくなっていった。
「…一体何が…」






あいつを、ほっといて良いはずなかった。
一人じゃいつも危なっかしくて…それなのに自分で一人にしてしまうなんて。
俺のせいだっ…、とゼロスは唇を噛みしめる。






もうすぐ日は落ち、夜となる。
橙が遠くなり――東の方から真っ暗な闇が空を覆おうとしている。
その前に彼女を見つけて、謝って…
とにかく、彼女を安全だと確信しなくては。
そう決意して、ゼロスは走った。
しいなを探して、あの場所へ、彼女の元へ―――



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