導きの指輪争奪戦!!


それは、この軍の指揮官である――エフラムのとある言葉により始まった。
この軍の魔道軍である、ルーテ、アスレイ、ナターシャ、ユアン、ノール、ラーチェルの六人を緊急にとあるテントに集めた。
何を伝えられるのであろう、と緊張を隠せない皆の重い雰囲気が漂う。
その中でエフラムがゆっくりと口を開けた。
「みんな、聞いてくれ。ここにクラスチェンジアイテムである『導きの指輪』がある。でも、一つしかないんだ。
この軍の魔道軍は六人…ルーテ、アスレイ、ナターシャ、ユアン、ノール、ラーチェル。お前達の中で一人だけクラスチェンジ出来る。
誰がクラスチェンジするかはこれから一週間のお前達の働きを見て決定したいと思う。頑張ってくれ」



まさかこの言葉が、あんな争奪戦を繰り広げるだなんて知らずに…。





導きの指輪争奪戦!!





「誰がクラスチェンジするんでしょうね」
エフラムの言葉を聞いた翌日、候補にあがっているルーテとアスレイの二人が大きな樹が生えている野原の木陰で休息を取っている。
そんな中で、アスレイがルーテに向けてそう言ったのだ。
その言葉を聞いて、ルーテが少々無言したあと、ゆっくりと口を開いた。
「私は絶対に選ばれてみせます。私、優秀ですから」
相変わらずですね、と呟きアスレイは微笑んだ。顔だけをこちらに向けて切り株に腰掛けているルーテを、アスレイが隣で立って
見下ろしている。そんな状態でその微笑みを見ると、なんだか落ち着かなかった。
「アスレイはクラスチェンジしたくないのですか?」
不意に、そう言ってやると、アスレイは一瞬吃驚したような顔をしたが、すぐ先程の微笑みに戻って、こう言った。
「私は別にルーテさんほどクラスチェンジしたいと言うわけではありませんよ」
「では、したくないと言う訳ではないのですね」
アスレイの言葉の最後の方を遮る様にルーテが言い放つ。なんだか一気に居心地が悪くなったようにアスレイが顔を歪めて、
斜め上に少し視線をずらしながら「えっと…」と呟いた。
「それでは、私とアスレイはライバルと言う事になりますね。」
「えー…えっと…」
アスレイは困惑に追い討ちをかけられたような感じで、反論が思い浮かばないようだった。
ルーテは表情を少しも変えずに淡々と言い放った後、またふいと野原の奥を見つめてしまった。
「…ルーテさん」
アスレイが小さくそう言って、ルーテの方に一、二歩近寄った。ルーテの肩に置こうと手も差し出しながら。
が、いきなりルーテが勢い良くぐるんとこっちに振り向いたので、びくんと体を強張らせてアスレイは逆にじり、と引き下がってしまった。
「私は、容赦しませんっ!」
そう強く言い放ち、ルーテはすっくと立ち上がるやいなや、ずかずかとその場を立ち去ってしまったのだ。
「る、ルーテ…さん…?」
残されたアスレイとしては、この行き場の無い手と、なんだか嫌な予感がするのとで体が硬直して動かなかった。



一方、候補にあがっているナターシャの方は…






のどかな野原で、ナターシャと、もうひとりジャハナ出身の男、ヨシュアがいる。
さきの戦いで怪我でもしたのか、右腕から血がじんわりと滲み出ていた。
そこに優しく包帯を重ねていくナターシャの表情をくいと確かめて、ヨシュアが言った。
「あんた、候補に上がってるんだろ?前線に行かなくていいのか」
ナターシャは一度手を止めたが、すぐにまた包帯を巻きだした。その様子をヨシュアが真剣な眼差しで窺う。
そんなヨシュアの眼を見ずに、ナターシャがゆっくりと口を開けた。
「いいのです…私は、クラスチェンジする気など…」
「嘘つけ。あんたみたいにレベルの高いシスターが、クラスチェンジを望まない筈はない」
即座にヨシュアにそう訂正されて、ナターシャは一度無言したが、すぐに言い返した。
「私はまだ未熟です。クラスチェンジする刺客などまだ…」
「俺なんかにかまってないで、前線に行けば経験値などすぐ貯まるだろう?」
それを聞いて、ナターシャは一度びくんと体を震わせ、黙り込んでしまった。
下を向いて、包帯を巻く手すらも止まってしまった。
その様子にヨシュアが、あわててナターシャの顔を覗き込むように言い放つ。
「…悪い、そんなに落ち込ませてしまうとはっ…」
「違うんです」
すぐに返事が帰って来た。ヨシュアは少々安堵しつつ、違う、と否定した彼女の言葉に疑問を忍ばせる。
「何がだ?」
ナターシャが、一度何か考えるように無言する。ヨシュアは焦らせない様に、待った。
追い詰めるような眼ではなく。見守るように。
「…今のままで、いいからです。」
「?」
「例え強くなれなくても、今こうして、ヨシュア様と共にいられるから…それだけで、今はいいのです。
だから私には、クラスチェンジは必要ありません…。」
「…ナターシャ…。」
彼女の意思を聞き、ふう、と一息つくと、ヨシュアはゆっくりと彼女の肩を掴み引き寄せた。
それに一度ナターシャが吃驚するも、すぐ落ち着いたように目を閉じ、体を預ける。
心地よい風がひとつ、ひゅうと吹いていった。






「ルーテさん!ルーテさん!!」
「…………」
ルーテが先へ先へと、広大な草原をずかずかと歩いていく。その後ろに、慌てながらも追いかけるアスレイの姿。
「ルーテさん!!ルーテさん、話を聞いて下さい!!」
「…なんですか、アスレイ」
やっと立ち止まってぐるんとアスレイの方に振り向くルーテ。そこでやっとアスレイも立ち止まれた様で、
ぜいぜいと肩で息をしている。慌てて追いかけたためか疲れているようだ。
「…ルーテさん、先程の発言は一体なんなんですか?あれはまるで敵意をむき出しにしたような…」
「あれは宣戦布告というものです。宣戦布告の意味は、一言にして言えば宣戦又は最後通牒を以ってせざる不意打ちを禁じようと
言うにあたり、戦争を開始するにあたっての敵対行為が…」
「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと、ルーテさん!!!」
「…なんでしょうか」
いきなりあまりにも恐ろしい発言をし出したルーテをたしなめ、アスレイは早口で叱った。
「私たちは仲間でしょう、ルーテさん。それなのに何故宣戦布告などと言う言葉を使うのですか!」
「…確かに私たちは仲間です。しかし、今はクラスチェンジの為に導きの指輪をめぐって争う身。宣戦布告の何がいけないのでしょうか」
「争いなどしません!少なくとも、導きの指輪が欲しいのならルーテさんはそんな必要はないです。」
「…どういう事です?」
疑問を浮かべたルーテがアスレイに尋ねた。アスレイはふう、とひとつ息をはいてから答えた。
「皆さん、クラスチェンジする気がないのです」
「…何故ですか?候補はまだまだ居る筈です。」
「それが…ナターシャさんはまず棄権しまして、他の皆さんは…」






回想…
「クラスチェンジー?僕はまだまだレベルが足りないし、今回は要らないよー」
ユアンはあっさりきっぱりと断った。
「…私はリオン様を止めたいのであってクラスチェンジなどには興味が…」
と、ノール。これまたきっぱりと丁重に断った。
残りラーチェルにしては。
「わたくしがクラスチェンジするのですわっ!わたくしの活躍を民間に知らしめるのですわっ!」
「あー無理無理。ラーチェル様、まだレベル10にもなってないでしょーが。」
唯一ルーテ以外に乗り気なものの、レナックに即効無理だと指摘されていた。
「なんですって?!わたくしに出来ない事はございませんわ!」
「レベルはいくらなんでも無理ですって。素直に諦めて、レベルあがるまで我慢です。我慢。」
「きー!!」
奇声をあげて反論しつつも、虚しくそれは響くばかり。
この五月蝿い姫を宥める不幸な従者に哀れだと思いつつも、姫を止める術が見つからないので何もいえず。
しばらくこの二人の争いは続いたらしい。
…結局はまあ、レナックが勝利したため導きの指輪はおあずけとなったのだ。






「…だ、そうです。」
「………」
なんたることか、自分以外に導きの指輪を狙う者がいないとは。
思わぬ結末にルーテが目をぱちくりしている。しかし、すぐにルーテはあることに気が付いた。
「まだあなたがいます。」
「はい?」
「貴方も導きの指輪を狙っている筈。私は決して渡しません。アスレイ、覚悟」
「ええ…っ?!!そんな、ルーテさん、私は狙ってなど…」
「問答無用!!」
勢い良く魔法のオーラが立ち込め始めるルーテ。慌ててアスレイは身を屈めた。
が、その際にあるものが見えた。
「さあ!魔法を唱えなさい、アスレイ!」
ブツブツとアスレイが詠唱し始めた。ルーテはやる気になったのですね、と思い口の端だけが微笑む。
ルーテの掌に終結された理の力を、思い切り放つ。
「……ファイアー!!」
それをスッとアスレイがかわしたかと思うと、すぐにアスレイが眩い光を放つ。
「…ライトニング!!!!」
しかし、それはルーテには向かわず、彼女の背後に向かって放たれた。その瞬間、異形のものの絶叫が響く。
「え…?」
「ルーテさん、敵です!早く魔法を!」
アスレイのその呼びかけを聞き、後ろを向くとそこには鋭い槍を持ったガーゴイルが居た。
先程のライトニングを受けてダメージはあるものの、今ので興奮状態に陥ったようであった。
「…分かりました。エルファイアー!」
一気に倒そうと、ルーテが今持っている魔法の中で一番強いものを放つ。
これは効いたようだが、興奮状態のガーゴイルは燃やし尽くされる前に炎から飛び立ち、そのままルーテ目掛けて槍を振り下ろした。
刹那。



ヴァインッッ!!!!!!



「……ッ!!」
思わず目を閉じたものの、痛みがない。そーっと目をあけて見ると、そこには薙ぎ払われ跡形も無く倒れた魔物の姿。
さっき大きな音がしたので――どうやら光魔法シャインによって倒されたと見える。
そして、目の前に居たのは自分をかばったアスレイ。
「アスレイ…?」
「…ルーテさん、大丈夫ですか?お怪我はありませんか…?」
ゆっくりと、アスレイが優しい目をして振り向く。
けれど、目に入ったのはアスレイの横腹から流れ出る、血。
アスレイはその傷口を手で押さえつけていた。彼の白い服と、その手を赤く染めていく。
「あ…私は平気です。でも、アスレイ…が」
「大丈夫です…、すぐ、手当てして貰いま…」
その瞬間、ガク、と力なくアスレイが地に膝をつく。もともと守備の低いアスレイにとっては耐え切れない。
「これでは歩けません。私、傷薬を持っているのでこれで応急処置をして…そうしたら私が人を呼んできます。」
「すみませ…ん」
荒い息をし、膝をついたまま動けないアスレイ。顔を下に向けているのでその表情は分からないが、恐らく相当の激痛に耐えているのだろう。
応急処置をしようと、ルーテも膝をつき傷の様子を確認する。
ゆっくりと傷薬を使って傷に染み込ませた。
「つっ…」
痛みにアスレイが顔を歪ませる。
「我慢して下さい。」
(私は馬鹿です。仲間と争う事に気を取られて魔物が近づいていた事に気がつけないなんて。…そして、アスレイを傷つけてしまうなんて。)
ルーテの手の動きが止まり、膝に落ちていく。アスレイは何事かと思いルーテを見つめた。
「…ルーテさん…?」
「私は、クラスチェンジが必要でした。」
「…何故、ですか?」
途切れる言葉を繋げながら、アスレイがそう語りかける。
「私は優秀ですから。だから、強くなる為にクラスチェンジがしたかったです。
でも、あまりにしたかったために回りが見えなくなり、貴方を巻き込んでしまった…。
今の私は優秀でも、何者でもありません…。仲間を傷つけてしまった、ただの、愚かな人間です…。」
ルーテの肩が震えている。
その震えをおさえようとする様に、アスレイはそっと手をルーテの肩にまわし、引き寄せた。
きっと、泣いてるんだと思う。
ルーテの泣き顔など見たことはない。
だからこそ、プライドの高い彼女の泣き顔を晒したくなかったから。
彼女なりに必死で殺した声が、小さく、小さく聞こえてきた。
ルーテの背中をさすり、小さく語りかけた。
「…ルーテさん。あなたが、クラスチェンジして下さい。」
「え…?」
そう言うと、アスレイはすっと何かをルーテに差し出した。それはまさしく、導きの指輪であった。
「…何故、これがここに…?」
「皆さんに了解をとって、ルーテさんがクラスチェンジするために貰ってきたのです。エフラム様も了解して下さいました」
「じゃあ…私を訪ねた来たのは」
「本当は、これを渡すためでした…」
「アスレイ…」
それを知らずに彼と戦おうとした自分が馬鹿らしくなってきて。
思わず、大粒の涙が流れようとしたけど、必死で堪えた。
指輪と一緒に、エフラムがクラスチェンジ祝いにと一緒にアスレイに持たせてくれたライブの杖を受け取り、
指輪を指にはめ、閃光と共に指輪が消えると、



祈り、杖を揮う。
眩い光の心地よさを、この身に染み渡らせたかのように――――






「…有難うございます、ルーテさん。」
「いいえ。あの時、アスレイがいなければ何も出来ませんでした。」
アスレイの傷はルーテの治療により随分と良くなり、まだ少々痛みはあるものの既に先頭に復帰出来るようになっていた。
賢者にクラスチェンジにたくましくなったルーテを見て、アスレイはふっと微笑んだ。
(ルーテさん…輝いてますね)
その微笑みに気が付いて、ルーテは振り向き、尋ねる。
「何を微笑んでいるのですか、アスレイ?」
「いいえ、何も…。」
この穏やかな瞬間を心地よく思った。―――しかし、ルーテの後ろに異形の影が見えた。
「る、る、ルーテさん、後ろ!!」
「サンダー!!!!」
ひらりとかわし、サンダーを魔物にうちこんだルーテ。まさに、一瞬で片付いてしまった。
(る、ルーテさん…クラスチェンジしたからって一気に強くなりすぎのような)
「片付きました。大丈夫ですアスレイ、もう二度と貴方に怪我をさせはしません。
この優秀な私が、貴方を守って全て敵を薙ぎ倒して見せます。」
「は、はあ…」
嬉しいんだか悲しいんだか。
男としては逆に守ってあげたいもの…なのだが。
どうやらこの力の差を見せ付けられては無理のようで。






(次回の導きの指輪は、私が是非是非、使わせて貰います…!)
たくましく進軍するルーテを裏目に、ひっそりと、野望を固く誓うアスレイなのであった。










あとがき。
やっと終わりました〜!アスルテ、ヨシュナタ、レナラー(一応)小説です!
いやあ、これだけ多くのCP絡めて書いたのは「迷いの森」以来かと…つか1〜2年ぶりデスカ。
でも折角の出番なのにノールさんをあまり出せなかったのが心残りでした。グスン。
聖魔小説は始めてなので自信ありませんが、良い作品だなと思って頂ければ幸いです〜。



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