まさか、こんな事になるだなんて。
私はまだ、全然そんなことに気付いていなかった――
未来の予感
「ティトレイ、居る?」
ペトナジャンカ市街の隅にある、ティトレイの家にヒルダが訪問してきた。声を出し、お尋ねの者の名を呼ぶ。
しかし、そこに当の本人はいなくて――かわりに、彼の姉、セレーナがいた。
「あ…いきなりすみません」
まさか当の本人がいない事に加えて、彼の姉だけが居ると言う時にあんな軽く叫んでしまったのだ。
「いえ、お構いなくヒルダさん。ティトレイなら今買い物に行ったわよ。多分、すぐ戻って来ると思うのだけれど」
熱血で真っ直ぐで即行動の彼とはまるで似つかない、と言ったらきっと本人は怒るだろうが…
そんな落ち着きのあるセレーナの言葉を聞いて、そうですか、とヒルダは一礼した。
「有難うございます。じゃあ私はティトレイを探しに…」
「待ってヒルダさん。入れ違いになってしまっては困るから、このまま待っていたらどうかしら?」
あ…と呟き、一歩だけ進めた足を戻す。ちょっと迷ったが、セレーナさんの言葉にも一理ある。
確かに、セレーナの言うとおり入れ違いになっては元も子もない。
このペトナジャンカはそう広くはないとは言え、人だかりがあればはぐれてしまってもおかしくない。
それに、時間も無駄にしたくないし…。
結局、ヒルダはセレーナの言うとおりにする事にした。
「では…失礼します」
「どうぞどうぞ。」
にこ、と微笑んで招き入れてくれた。器量も良いし、何より笑顔が素敵でなんだかホッとする感じがある。
そして…前に彼女を助けた時のこと、自分よりも今しなくてはならない事を優先し、やる事を間違えない。
ティトレイが自慢するのも分かる気がする――最も、ちょっといきすぎ…だとは思うが。
いつだか、ユージーンがティトレイは自分の後にセレーナの影を見ているのでは、と言った事がある。
あの時ティトレイは否定した。確かに自分はこの人に全然似てない、と思う。
しかし、あの話を聞いた時、何故か心が変な感じがしたのは気のせいだったのだろうか…。
(…まぁ、気にしない…気にしない)
ふるふると軽く首を振って考えを散らした。今更思ってもきっとしょうがないだろうし。
「あの、ヒルダさん。ティトレイはどうですか?」
「…え?ティトレイの事ならセレーナさんの方がよく知ってるはずじゃ」
いきなりセレーナに話しかけられてちょっと吃驚しつつ、疑問の残る彼女の質問に答えた。
「えっと、そうじゃなくて…」
「…そうじゃなくて…何ですか?」
なんだか、既にこっちが分かっているような感じがするが、全然分からなくて疑問は募るばかり。
「そうじゃなくて、ヒルダさん、ティトレイなんて…どうかしら?って話」
「え…?」
まってまって。今なんて言ったのセレーナさん。
(つまり…えっと…私とティトレイが…そういう、コト?!)
「え、え、え、えっと、あの、そのっ、」
いきなり本人の姉からそう言う話をされるとは思わなくて、吃驚して口がまわらない。
まさかここまで自分が動揺するだなんて夢にも思わなかった。
「へーっくしっ!!!」
「?!」
いきなりの大声に吃驚して後ろを振り返ると、そこには張本人――ティトレイが居た。
確かに買い物に行ってたらしい買い物かごを左手にぶらさげている。
(まさか、今の話…聞かれてたなんてこと)
心臓が自分の心の声よりも五月蝿く、激しくドクンドクンと鳴り響く。体が武者震いをした。
眼が見開いてティトレイをしっかりとまるで見張るように見つめている。本当に聞いてたらどうしようかと。
「あ、ヒルダ!なんだ来てたのか?来てたなら来てるって言えよ〜」
ところが、こちらに向けられたのはいつものごとく能天気な声と、満円の笑顔だった。
(もしかして、聞いてなかった…?)
ホッ、と思わず安堵の息がもれる。その隣でティトレイとセレーナが言い合っていた。
「ティトレイ、あなたが呼んだのにそれはないわよ」
「あー…そうだな、悪い悪い、待たせたみたいだなヒルダ!」
そのノリでこっちに話をふられるのにはちょっとたじっ、となったが、すぐに別に、と返事を返した。
別に普通に返事を返したつもりだったけど、ちょっと冷たい感じがしてしまって、しまった、とちょっと後悔する。
しかし、ティトレイは笑顔を崩さないので大丈夫そうだ、と少し安心した。
とりあえずいつものように冷静な顔に戻して、ティトレイの方を向く。
「…で、私になんの用?」
「ああ、そうそう。実はヒルダに見せたいもんがあってさ――ちょっとついて来てくれないか?」
見せたいもの…?
ヒルダの耳がついピンとたった。そのせいもあってか、興味があるんだな!とティトレイに言われる。
「わ、分かったわよ…行くわ」
この際否定するのもどうかと思い、ついていく事に決めた。
それからティトレイは買い物かごを置き、セレーナに一言「行って来るな姉貴」と言って、こちらに小走りで近寄ってきた。
「じゃあ、行こうぜヒルダ」
「え、ええ…」
ティトレイの家から出て、先を行くティトレイについて行こうとすると――セレーナが家から出てきて、ヒルダを呼び止めた。
「ヒルダさん」
「あ…はい」
「頑張ってねv」
物凄いニッコリした顔で、さっきティトレイがしていたように握り拳に親指を立てて、まるで応援をするかのようにビシッ!と
こちらに向ける。――ああそうか、さっきの事だ。
「あ…はあ…」
返事に困ってしまった。口が上手くまわらない。
「何してるんだヒルダ?行くぞ?」
「あ、ごめん、すぐ行くわ」
ティトレイの声で我に返ったヒルダは、とりあえずセレーナにぺこりと一礼して、ティトレイの方へ走っていった。
「遅くなってすまないわね」
「いや別に…姉貴と何話してたんだ?」
「あ…」
姉の事になると何故か猫のように潤んだ眼になるのは気のせいだろうか。――おねだりをしているかのように、
無邪気な赤ちゃんのように、純粋一直線のような瞳になる。
しかし、そんな眼されても言える訳がない。
――この聞いてる男、ティトレイとの仲がどうとかの話なんて。
「べ、別になんでもないわよっ」
フイ、とそっぽを向いてまるで逃げるように早歩きで歩き出す。
その後をヒルダ待てって、との声を出しながらティトレイが追いかけて行った。
「ヒルダー、お前道分からないだろー?先に行くなってー!ヒルダー!」
ヒルダが一行に早足を緩めないまま、市街の奥に二人の影が見えなくなっていった。
そしてその後ろでは。
「どうかティトレイをお願いします、ヒルダさん・・・v」
と、ニッコリ微笑んで呟くセレーナの姿があった事はきっと誰も気付いていない。
二人はもう市街から出て、更にペトナジャンカからも抜けた。目の前には何処までも続く広い広い草原が見える。
特に何かあるようには見えなくて、ティトレイが「見せたいもの」の意図がどうにも掴めない。
予想したとしても、このティトレイ、何か企んだら凡人にとっては、それはそれは想像つかないものを思いつく。
そして自分も恐らく凡人の範囲であり――勿論、この男の考えてる事なんて全く分からないわけで。
何かやる事に突っ込まれると異様に素直で分かりやすくはあるのだが、こんな風に企むとやっぱり分からない。
チラリ、と隣に並び歩くティトレイの顔を見て、様子を窺った。
その表情は凄く機嫌の良いようで、鼻歌なんかも歌っている。聴いたことのない歌なのできっとティトレイがふと
考え付いた歌か、はたまたマオの入れ知恵が入った歌か。…なんて考えながら、ヒルダは視線を前に戻した。
…もう結構歩いたし、後ろに振り返ればペトナジャンカの町も遠くなってきた。そろそろ、ティトレイ曰く「見せたいもの」に
巡りついても良い頃なんだけど、と思いつつ隣で歩くティトレイのスピードに合わせて歩き続けた。
でも、流石に堪えきれなくなったのか、
「…ねえ、まだなの?」
聞いてしまったのだ。まだ数十分も経ってないだろうけど、行き先を知らされないまま歩くというのは
なんとも気が焦ったり、急いだりしてしまうものなのだから。
「もうすぐだって、もうちょっとだけ我慢してくれ」
こちらに視線を移さずにティトレイが言う。その仕草が何故かちょっとカチンと気に触る。――本当に、良く分からないけど。
視線を向けない事が気に触る、そのことに。何故か気になってしまう、自分が。
ぶるぶると気を紛らわす為に、ティトレイにどうしたと聞かれない程度に首を振って、思考を飛ばした。
だって、そんな事考えてもどうしようもないから。
本当に、何もないから…。
「――着いたぜ、ヒルダ」
「あ、え、本当?」
色々と考え事している間に着いてしまったらしい。おかしいものだ、さっきまで気がずっと焦っていたのに
考え事をしてるとあっという間な気がしてしまう。
ティトレイによって連れてこられたここは、どうやら丘のようだ。
結構遠くまで来たよう、だって後ろを見てもペトナジャンカの町が見えなくなってきたくらいなのだから。
丘は今まで視界に入ったようなものと特に何か変わったものはない。ただ、草原が広がるだけ。
「…ここが何かあるの?」
「おう。ちょっと、こっち来て見ろって」
ティトレイが数メートル先までもう歩いていて、ヒルダは疑問を感じながらティトレイの方まで歩いた。
「わっ…」
すると、視界に入ってきたのは満開の花畑。
丘は緩やかな坂になっていて、斜面に様々な華が咲き乱れている。花の香りが鼻につん、と触れてついふっと眼を閉じた。
「な、いいとこだろ?」
「ええ…ペトナジャンカの近くにこんな所があったのね、初めて知ったわ」
ティトレイはこちらにぐるんと体を反転させて、ヒルダの方を向く形にするとニコッと笑みを見せた。
まるで、その反応が嬉しかった、とでも言うように。
「俺もさ、最近まで知らなかったけど、キノコでも採りにトヨホウス河の近くまで行ったら偶然見つけたんだ。
それでとっさに、これはヒルダにも見せなきゃな!って思ってさ」
「…私に…?」
花畑を見つけた途端に、あのシスコンのティトレイが大切な大切な姉ではなく、自分に見せなくてはと思ってくれたとは。
あまりにも意外で――そして考えもしなかった言葉を聞いて驚きが隠せなかった。
ほんのり顔が熱い様な感覚があるので、きっと赤面してしまったのだ、と思いヒルダは控えめに少しうつむいた。
すると、うつむいた拍子に、花畑の端っこに大きな石がいくつか並んでいるのが見えた。
「――変なの、こんな所にこんな大きな石が」
妙に興味を持ったヒルダが、花畑の花を出来るだけ踏まないように気をつけながら、石の連なる所まで歩いていった。
「ヒルダ?ちょ、ちょっと待てって!」
その後を慌ててティトレイが追いかけてくる。しかし気にせずそのまま進んだ。
石は隣接していたり、少し離れていたりと――無造作に連なっていた。
そして石と石とが少し間隔を開けて並んでいる所の影に、白い何かが見える。
「…これは」
見た所これは胡蝶蘭(コチョウラン)のようだ。胡蝶蘭は直射日光に弱く、影があり多湿な所に群生する性質がある――。
なるほど、だからここにこの華があるわけだ、とヒルダは思った。
ゆっくりと膝を折り、しゃがみ込む。そうするとより鮮明に胡蝶蘭が見えてきた。
そこで、やっとティトレイが辿り着く。華を避けて歩くのに中々手間取ってしまったようだ。
「何してるんだヒルダー!いきなり動いて…お、胡蝶蘭か!」
一発で華の名前をあてるとは中々のものだ。流石、木のフォルスの使い手なだけはある。
ティトレイの方をちらりと向いて、ヒルダが口を開けた。
「知ってるのね、あんた」
「そりゃあ勿論。少しは華の知識もあるぜ!流石に花言葉とかはあんまり知らないけどなー。」
ふぅん…、と呟いてティトレイの方からまた胡蝶蘭へと視線をずらした。
(花言葉、か…)
華には花言葉というものがある。それぞれの華に深い意味や、ひとつで沢山の花言葉をもつものもある。
花言葉によって使い分けられて、プレゼントに使うとかそう言うロマンチックなのもあるそうだ。
両手の肱を膝の上につけて、両手を顎につけて、顎を支えるような態勢をとる。そしてじっくりと観察していると、
前にちらりとミナールの図書館で見た、花言葉の本の一説を思い出した。
思考にゆっくり、けれど確かに、思い出されてくる。
胡蝶蘭、胡蝶蘭は…確か…
「花言葉は、あなたを…愛します…」
「え?何か言ったか、ヒルダ?」
「…あっ!べ、別になんでもないわ」
不味い、今の呟きが聞こえてなくて本当に良かったと思う。とっさに口を手で押さえた。
今の言葉が聞かれるのは凄く恥ずかしかったからだ。奇しくも、コイツを意識している者にとっては。
(あなたを、愛します…)
花言葉が頭に浮かんで離れない。――そうしたら、ふと先程の事を思い出した。
(ヒルダさん、ティトレイなんて…どうかしら?)
セレーナの言葉が耳について離れない。目の前に居るコイツとどうかなんて…自分にも良く分かっていない。
ユリスを倒した時に一緒に戦った仲間、という事は分かる。
しかし、セレーナの言う『どうなのか』については、全く持ってノーコメントだ。
隠してるわけでもない。本当に、なんて言って良いのか分からないんだ。
恋愛感情がないのか、と聞かれれば嘘になる。
じゃあ、そうなるのかと聞かれれば違う、という事になる。
だってティトレイが自分との事をどう思ってるかなんて分からないのだから――。
そして、まさか実の姉が自分とそんな事を期待しているなんて知ったらどう思うのだろう。
吃驚するか、言葉を失うか、それともそんなの有り得ないと否定するか。
OKすると…思ったら自惚れる事になる。
そう言えば、この話をしていた時、ティトレイはクシャミをしたっけ。
クシャミは一回だとその本人にとって良い噂だと聞いたことがある――そう考えればこれはティトレイにとって良い事なのだが。
しかし、あくまでこれが本当かどうか分からないし、これにそうだねと頷けば益々自惚れが強くなるばかりだ。
「…ヒルダ、さっきからボケーッとして…どうしたんだ?」
「あ…べ、別になんでもないわ…」
ティトレイに言われて我に返る。さっきから色々考え事ばかりしている…。しかし、言えるはずもない。
だって自分に問いている本人についての話題なのだ。しかも、自分との。
「でもさっきからずっと何か考え込んでるみたいだしさ。悩みがあれば相談に乗るぜ?」
「…要らないわ…」
このお人よしさがちょっと気に触る。本当にこれはティトレイの優しさなのだけど――今は気まずい。
「遠慮しないでさ。ほら、俺達仲間だろ?」
(…仲間)
その単語が、頭がぐらつかすように激しく気に触った。何故かは知らないが、とにかく苛立ちが隠せない。
それと同時に、胸がズキンと締め付けるような痛みが走った気がした。
降り注ぐ光の暑さが伴って、頭が朦朧として来て、なんだか気分が異様に悪い。
「なあ、ヒルダ」
ティトレイの声を聞いた瞬間、頭が真っ白になった気がした。
「…五月蝿いわよっ!!!」
「うわっ?!ひ、ヒルダ?!」
ヒルダがいきなり叫んだかと思うとすっくと立ち上がり、大きな声に驚いてこけたティトレイを見下す形になって、
精一杯の睨みがギロリとティトレイに注げられた。
その瞬間に物凄い悪寒が背筋に走るのをティトレイは自覚するほどに感じていた。
「さっきから五月蝿いのよっ!何度も何度も同じ事聞いて…そんな事聞かれたくないのよっ!!」
一喝されたティトレイはその迫力に押されて反論が思いつかずに、ただ無言してしまった。
ティトレイの思考内では、このやり取りが彼女の逆鱗を招いてしまうとは欠片も思ってはいなかったわけで。
「…ヒルダ…?」
ぼそりと名を呼んだが、それすらも今の彼女には激怒の要員のひとつのようだ。
再び恐ろしく迫力のある睨みがつきつけられたかと思うと、思い切り怒鳴りがくる。
「私が何を悩んでるかあんたには分かりもしない癖に!分からないでしょ!ええそうよ、あんたには絶対分かる訳ないんだからっ!!」
そう怒鳴られてやっぱりちょっと驚いたが――ムッ、とヒルダの言葉に反論が湧き上がってくる。
ヒルダと同じ様に立ち上がるとヒルダに負けずとも劣らぬ大きい声で言い返した。
「ああ、分からねぇよ!お前、何も言ってくれないだろ!!言ってくれなきゃ分からねぇじゃねぇかっ!!」
その言葉に大きく反応を示して、ヒルダが更に言い返す。
「言える訳ないじゃない!あんたとの仲がどうとかの話なんて――――」
「…え?」
「…あっ」
勢いで口から出てしまった。言えない、と思い切り言いまくっていたのに、一気に自分が恥ずかしくなってきた。
ティトレイはと言うと、眼を見開き、赤面して無言のまま何も言えないでいる。
それは当たり前だ――いきなりそんな事言われて、即座に返せる方がどうかしている。
「ご、ごめんっ…私、変な事言っちゃって…」
ティトレイから逃げるように、彼に背中を向けて去ろうとする。
しかし、それは背後から伸びてきた手によって止められてしまった。
「―――え…?」
後ろを見れば、ティトレイが自分の腕を掴み、引き止めていた。
「ま、待てよ!」
しかし、待てと言われて待てる訳がない。一気に顔が赤くなるのを感じて、手を振り払おうとする。
だが、ティトレイの手はとても強い力で、どうにも振り払う事が出来ない。
「ちょっ…、離してよ!」
「聞けって!ヒルダ!!」
いきなり出された大声に思わずビクンと体が震える。
そうして、何故かぴたりと身体の動きが止まってしまった。逃げたかった筈なのに。
「いきなり言われて確かに吃驚したけどさ…、この際はっきり言う。
俺はお前が好きだ!…お前に『年下には興味ない』って言われて、はっきりお前が好きだってわかった後も…
ずっと言えなかったけどさ…本当に、好きなんだ」
いつのまにか向かい合う形になって聞いたその言葉は――真っ白なヒルダの思考に、確かに、そして強く響いた。
心の奥から嬉しさが溢れ出て、思わず涙目になってしまう。
「…嘘」
「嘘じゃねぇ、本気だ」
ヒルダを静止させる為に彼女の手を握った彼の手がそろりと移動する。両手を共にし、ヒルダの肩にぽんと置いた。
そして、穏やかな笑顔を見せる。――いつもの、能天気そうな、素直なもの…とかの類じゃない。
愛しい人が目の前に居るから嬉しいと言う証。恋の、笑顔。
「好きだ、ヒルダ」
「…ティトレイ…、ティトレイ…っ」
感極まってヒルダががばりとティトレイに抱きつく。
「うわっ…と」
厚い胸に顔を埋めて、距離すら埋めるくらいに顔を押し当てた。
そのぬくもりは予想してた以上に暖かくて、優しくて…このまま離すのが惜しくなってしまうくらいに。
思わず、彼の背中に手を回してぎゅ、と掴むと、ティトレイもそろそろと手を回してくる。
歓喜が胸の中で踊るように溢れてきて――でもそれが、とても心地よかった。
「…嬉しい…」
ヒルダの発した小さな呟きを聞き、ティトレイはふ、と微笑んだ。
ヒルダの返事はただそれだけだったけど…、それだけで、互いの思いが――通い合ったような気がしたから。
「あのさ、さっきの話だけどな」
「何?」
あれから、花畑をもっと見たい、とヒルダが言い出したので今はこうして花畑のまわりを歩いている。
様々な美しい花に囲まれて――ふんわりとした香りに穏やかな表情を浮かべながら、手を繋ぎ、歩を進めている。
そんな時に、ティトレイがふとそう言いだしたのだ。
「えっと、俺達の中がどうとかの話で」
「ああ…あれ…?」
あの話を持ち出したが故にこうなったのは、なんだかセレーナさんに感謝していいのかどうか、とちょっと苦笑する。
一瞬の苦笑を解いて、ティトレイの方を見やると何故か彼の顔はほんのり赤く染まっている。
「…どうしたの?」
「いや、実はさ…ヒルダは気付いてないかもしれないけど、お前にペトナジャンカに来ないかって、前に俺言っただろ?」
「ええ」
そう言うと、ティトレイが一度ぽりぽりと顔をかき、顔をちょっと上に逸らした。
その様子を見てヒルダが首を傾げる。
そして、それから少し間を空けて、ティトレイが口を開いた。
「実はアレ、俺がまたお前から離れるのが嫌だったから…なんて」
「え…」
つられて顔が赤くなってしまう。二人で赤面、と言うのは何だか異様に気恥ずかしいものだ。
思わずこちらも顔を逸らしてしまう。
「でさ、あの時、実はもう一つ言いたい事があったんだ。…この際言っちゃってもいいよな」
「…?」
緊張しているらしく、一度空気を意識して吸って、ティトレイはこちらを向いた。
「ヒルダを姉貴に紹介したい。…今度は仲間じゃなく、俺の…嫁さん、として」
「…!!」
そう言われて、とても恥ずかしかったけど…胸の奥から無限に溢れ出てくる嬉しさが勝った。
その思いに身を任せ、がばりと抱きついた。
すぐ、ティトレイが背中に腕を回して優しく、けれども強く受け止めてくれた。
そして顔を上げて、互いに見合いやる。
「――…ついてきて、くれるか?」
「…当たり前でしょ。そっちこそ、後悔するかもよ」
「しない。こんなにキレイな嫁さん貰って不満言うのが愚かってもんだぜ。」
「――馬鹿…。」
熱い、熱いキスをした。
――もう二度と離れないように、気持ちが何処かへ行ってしまわない様に。
揺らがないように、絶望なんかしたりしないように…。
沢山の思いをその唇にのせて、永久にしたたる、誓いの口付けを――
(あなたを…愛します…)
あとがき。
ティトヒルでプロポーズ編です!うーむ、今回は趣旨外れなかったよな…?!(どうだか
今思えばこれを捧げた方が良かったかもしれない。だってこっちのが恋愛描写が爽やかな様な気がする!(変わらんか
でもなんか抱きしめることについての表現が似通ってきたような気が……結婚宣言させたからいいか。(ダメです
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