それは、我らが集団唯一の盗賊であるシャルルが、重騎士と戦っている時のことだった…

「にしし。硬いから随分手こずっちゃったけど、もう終わりだね!」
「くうっ…」
戦況はどこからどう見てもシャルル優勢、残り一撃でトドメを刺せるような状況であった。それはシャルル本人も分かっている故、剣を大きく振り上げて最後の一撃をかまそうとする。
「そーれっ!」
「な、なんの!」
が、しかし、シャルルには及ばないものの幾分のレベルを重ねた重騎士、そこで易々と倒されるわけは無い。サッとシャルルの攻撃をかわして見せたのだった。
「あ、あれぇ?しょーがないなぁ、もう一発…」
が、何故かニ打目三打目と繰り返して剣を振っては見るものの、何故か全く当たらない。もうここまで来ると、重騎士は全く避けていない。逆に、シャルルの剣が重騎士に当たっていないのだ。
「な、なんでー?!なんで当たらないのー?!!ええいっ!!」
もはや半ばヤケクソで、ブンッ!!と勢い良く剣を振り回す。が、勢いがつきすぎて剣は後ろに回り、丁度良くシャルルの後ろに立っていた閃光の後頭部に直撃した。
「ぐはっ?!!」
「おぉ。クリティカルヒット」
「い、言ってる場合か!」
ルーウェンの関心したような呟きと、アデルの正論ツッコミと共に、閃光はぐらりとよろけて倒れこんだ。
「ぎゃにゃー!!せ、閃光ごめん!!」
慌ててシャルルが閃光の元へ近づくが…、まだあの重騎士は倒れていない。背中を見せたシャルルに隙ありと、反撃の一撃をかます。
「フンヌ!!」
「いっだ――――――ッッッ!!!!」
耳に轟く絶叫が、所狭しと木霊していった。











「……で。これは一体どーゆー事かしら?」
この集団の回復役である僧侶、クローディアの厳しい声色が響いた。腕を組み、仁王立ちして見下ろす様は、表情は何も変わっていないのにまるで笑っていない。それどころか、やがて眉間に皺が寄り、眉がつり上がる。怒っているのは誰が見ても明らかであった。
「シャルルのまともに受けたであろう酷い刺し傷、そして閃光の原因不明の後頭部にあるタンコブ。一体どうやったらこんな酷い怪我をするの?!」
地べたに正座させられたシャルルと閃光は、足の痺れに耐えながらクローディアの説教をくらわされていたのだ。
争いを嫌い、皆の無事を祈るクローディアだからこそ、こうして厳しく怒っているのだが…。
「うえぇぇぇ、ごめんなさい〜…」
「………と、言うかなんで俺まで怒られるんだ…?」
明らかに俺は巻き込まれた被害者であると、閃光が正論な愚痴をこぼすが、どうやら取り合ってはくれなさそうだ。
もう既に一時間に及び始めた説教をみかねて、ルーウェンが間に割り込む。
「おい、もうその辺にしといてやれよ。こいつらも反省しただろ?」
「ルーウェン…貴方がそんな事を言える立場かしら、この野蛮人!いつもいつも無駄な怪我ばかりしてくる癖に!」
「な、なんだって?!」
「あーら、カッとなっちゃって、図星なの?」
「五月蝿ぇな、大体今そんなこと関係ねぇだろーが!」
まるで犬猿の仲のごとく、ルーウェンとクローディアが喧嘩を始めてしまった。が、それを見事諌めるかのごとく、ナイスタイミングで魔法剣士・ユリエット――通称ユリエ、が現れた。
「シャルル。ちょっと聞きたいことがあるんだけど、いい?」
「あーユリエー。なーに?」
ユリエの冷静な言葉につられてか、ルーウェンとクローディアも喧嘩を止める。閃光はナイス、ユリエ。と心の中で安堵した。
が、彼女の問うた言葉は、一瞬で皆の眼を見開かせた。


「……えっと…もしかしてシャルル、剣の使い方ってよく分かってなかったりする…?」


「「「え…」」」
ルーウェン、クローディア、閃光の声が揃う。
「うん、いつもてきとー」
「「適当なのかよ!!!」」「……(汗)」
シャルルの答えにまたルーウェンと閃光が揃ったツッコミをいれ、クローディアは一人呆れて項垂れた。
ユリエはやっぱり、と呟くと、言葉を続ける。
「今日の戦いを見てて思ったんだけど、シャルルの剣の振り方って全く規則性がないのよね。構えとか、握り方もバラバラだし。だからひょっとしたら剣の基本を知らないんじゃないかな?と思って…。」
ユリエの言い分は的を得ていた。実質正解していたわけであるし。
「……アホかお前は。剣の使い方を知らないで今まで戦ってこられたなんて、奇跡だろーが」
「つーか、よく大次元断覚えられたな…」
閃光とルーウェンの呆れた言葉に促されて、シャルルはうーんと呻いた。
「だってしょーがないじゃん。今までまともに剣なんか使ってこなかったし、だいたい得意武器じゃないし」
確かに盗賊の得意武器は主に弓や銃だ。それが何故シャルルは剣を選んだのか、明らかに疑問である。
「じゃあ、なんで剣を?」
「銃はロザりん様がいたし、弓はクローディアとローラがいたから」
「あぁ…要員が足りてたってことね…」
ユリエは納得したようなしていないような、複雑な表情で笑んだ。
だいたいの理由を理解して、ずいっと閃光がシャルルを見下ろした。
「理由は分かったが…、お前、そんなんでちゃんと戦えてるのか?」
「戦えてるよ。だから生きてるんじゃん」
「…剣思いっきりぶつけられて、そんな事言われても信用出来るか」
どうやら閃光は相当後頭部に剣をぶつけられたことを根に持っているようだった。ルーウェンも、相変わらず根に持つタイプだな、閃光。とこっそり呟いた。
「ぶーぶー。じゃあ、今やってみるから見ててよ」
言うと、シャルルは剣を構え、丁度良く目の前にあった大きな石を目標に、すっと構える。
ぎゅ、と剣を握り締め、シャルルは叫んだ。
「一文字スラッシュ!」
声と共に、ズバァッ!!と一文字に光が走る。そして身を翻し、空で一回転して、シャルルは元の位置にスタッと華麗に着地した。
「どーお?別に問題なんか何も……」
「「「「…………」」」」
シャルルがくるりと向き直った瞬間、何故かぽかーんと口を開けて硬直する四人の姿が目に入った。
「あ、あれ、どうしたのみんな?」
「おい、シャルル、お前……危なっかしすぎるぞ」
「はえ?」
危なっかしい。ただ技を使っただけなのに、何故?と明らかに何も分かっていないシャルルを見かねて、閃光がツッコんだ。
「いいか、シャルル……ただ真っ直ぐ敵だけを一文字に斬る筈なのに、どうして周りのもの全てが斬り取られてるんだ」
はた、と言われて周りを見渡すと、目標にした石もろとも、周りの草原や木の枝などなど、全部が問答無用に斬られ粉々になり、下の地べたが露になっている。更にそこには、生々しい斬り跡も。
「あ、あはははははは…」
「……もしかしてアイツが力ないのに、異様に攻撃力あるのはこのせいか?」
「多分ね…」
今日始めてルーウェンとクローディアの心が、喧嘩なしに一緒になった瞬間だった。




「どうしようか…このままじゃ、近いうちに皆も巻き込まれたりして、被害が出るかもしれないわ」
ユリエが心配気に言うと、ルーウェンもクローディアも同じく頷いた。
「いや、俺は既に被害を受けたんだが」
「それに、今まではなんとかやってこれたから良いけど、これからはシャルルの身の危険の切欠になるかも…まずはシャルルの剣使いをなんとかしないと…」
「無視かオイ」
ユリエのナイススルーっぷりに関心(?)しつつ、やがてユリエは一つの考えをあみ出した。
「じゃあ、誰かがシャルルに剣の基本を最初から教えてあげるのはどう?」
「だな。」
「それが一番いいわ」
「………」
尚も無視され続けている閃光が少し悲しげに俯いた。
「で、誰が教えるかだけど…。」
「閃光が教えてやれよ。お前シャルルと仲良いし問題ないだろ」
「なっ?!だ、誰が仲がい」
「よし、決まりだな」
「頑張りなさい閃光」
相変わらずの意見スルーされっぷりで、いつの間にか決定されてしまった。
「…………誰か俺の意見を聞いてくれ…」
「よろしくー、閃光」
「……おう…」
侍としての誓いを立てた手前、一度科された責任を放棄する訳にもいかず、無気力気味に閃光は頷いた。




「……と、いうわけで俺がお前に教える事になったんだが…」
「はあーい」
「なんなんだお前そのだらしない構えは」
閃光がまず手始めに指摘したのは、シャルルの剣の構えだった。
片手で引き摺るように剣を持ち、全く剣に意識を向けず、きょろきょろといつも周りを見渡している。習性的に宝を探し回る盗賊だからこそなのだが、あまりにも剣の扱いが可哀想すぎる、と閃光は毒づいた。
「俺みたいにちゃんと構えられないのか?」
「えー。閃光みたいに構えたら足痛くなりそうだし、がにまたになりそう」
「アホか!着目点は足じゃねえ!!」
「それに閃光すっごい高く剣構えてるから、肩も痛くなりそう」
「………侍の構え方がそう簡単に真似されてたまるかっての」
問題なのは足ではなく腕であって、別に俺そっくりに構えなくていいから、せめてちゃんと剣を握れ、と閃光は溜息混じりに訂正を付け加えた。
「ぶー、分かったよ……でも、ふつーに握ればいいんでしょ?」
「あまり力を入れるんじゃない。力任せにやっても剣は従ってはくれないからな」
言うと、閃光は見本を見せるようにして剣を握った。シャルルも真似するようにして、あまり力を入れないように加減しながら、すっと握る。
「よし。…で、次は構えだが」
閃光はまず、足を開き体の中央で剣を真っ直ぐに構えた。
「こうだ。剣はしっかり、揺らさないように」
「こう?」
シャルルが同様に真似をして、剣を構える。閃光はそれを見て、なんだかシャルルの構えがとても頼りなさげに見えるのは、女だからなのかそうでないのか、複雑な気持ちで首をかしげた。
そんな閃光の様子に気付いてか、シャルルはぷく、と頬を膨らませた。
「ちょっと閃光、何か言いたいことあるならはっきり言ってよ!」
「んん…なんと言うべきか、なんっか腰がひけてるんだよなお前……そう、まさにへっぴり腰…」
「にょあー!失敬なー!」
顔を真っ赤にしてシャルルは怒る。流石にへっぴり腰だなんて指摘されるのは、プライドにちくちくと棘が刺さるようなものだ。閃光に向かって、シャルルはぽこぽこと全く痛くない拳で殴りかかる。閃光はふう、と息をついて、グーの形のままのシャルルの手を取り、ぐいっと引っ張る。シャルルの後ろから閃光が覆い被さるような形になった。
「え…あ……?」
両手はしっかりと握られていて、すぐ後ろには閃光の体温を感じる。僅かに息が頭のあたりを掠め、時折閃光の服装の一つである、首元にあしらわれているファーっぽいものが、シャルルの後頭部をやんわりとくすぐった。
妙な他人の暖かさを強く感じ、思わずシャルルの体温が一気に高まる。
両手の上に重ねられた閃光の手も同様に暖かくて、そして意外にごつごつとしていて…剣を使う者はどうしてもこうなるのだと知ってはいたが、手袋をはき、更に手の甲であるにもかかわらず、リアルに感じる閃光の手の感触に―――彼の手よりも強く自分の手の体温が高まるのを感じた。
後ろから抱きすくめられたように見える形ゆえ、閃光からシャルルの顔は見れないものの、もしも見れているとしたら、シャルルの顔は紛れもなく熟れた果実のように真っ赤であろう。
「あ、あぅ、あ、閃光…っ」
「……で、剣はこう持つんだ。分かったか?」
「はえ?あ、はひっ!」
いきなり聞こえた閃光の言葉に、思わずシャルルは返事をしてしまう。はた、と気付くと、いつの間にやら手には剣。どうやら、これは剣の構え方を教えるためのものだったらしい。
「よし。じゃあ放すから、今度は自分で構えてみろ」
「………。」
言うと、パッ、と閃光は離れてしまう。背中にずっと感じていた体温が嘘の様になくなってしまったのが、なんだか名残惜しかった。
そして正直、閃光の説明など一切聞いていなかったシャルルなので(抱きすくめられてたので夢中になって)、『自分で構えてみろ』と言われても再現出来る筈など全くなかった。
「…お前、俺の言葉聞いてたか?」
「……え、えへへ…ごめんなさい」
「……………アホか」
閃光の呆れ返ったような毒吐きに、シャルルは、だって閃光があんな風にくっつくからじゃない、と心の中だけで呟いた。
とりあえず自分のすっかり火照った顔に気付かれなかった事に安堵しながら、再度シャルルは閃光の説明を聞くことになってしまった。
やがて剣の構え方も漸く習得した頃、閃光は次の課題へと駒を移した。
「じゃあ、次は剣の振り方を…」
「あ――い!」
「だっ!剣を持って手を挙げるなっ!!」
ひたすら危なっかしいシャルルの行動一つ一つに苦悩しながら、閃光の剣術指南は続いていった。




翌日。今日もまた戦いが始まる。皆それぞれの武器を構え、目の前に佇む敵を見据えながら立ち回っていく。
暫くして敵も半数程になってきた頃、ふとシャルルの目の前に、ズン、と大きな魔物が現れた。銃魔人族だ。
「シャルル!」
慌ててユリエが叫ぶ、が、シャルルはニッコリと笑み、ウインクとピースをユリエに送った。
「だーいじょうぶっ!あたしは昨日までのあたしじゃないんだから」
すぐさま剣を構え、大きな敵を睨みつける。シャルルが元々小さいせいもあるが、敵との体格さは半端じゃない。遠くで、ユリエのはらはらとした心配そうな表情が見える。
まずシャルルは敵の死角から回り込み、思い切り敵の胴を薙ぐ。が、堅い。ここにはあまりダメージを与えられないようだった。
「シャルル、大丈夫か?!」
「ちょっと待ってて、今援護するから…っ」
ルーウェンとクローディアが此方に漸くついたらしく、シャルルに呼びかける。が、シャルルはこれも大丈夫、と言い放つと、ぴょんっと勢い良くジャンプした。
「暗黒剣Xの字斬り―――――ッッッ!!!」
ズバッ、ズバァッ!!とXの字を剣の衝撃波で描き、思いきり下から真上へ切り上げる。最後に爆発音と共に敵が下に落ち、消滅してから、シャルルがスタッと降りてきた。
「えっへっへー、どんなもんだい!」
一瞬、今までの危なっかしいシャルルの技とは考えられないくらいの華麗な剣さばきに、ルーウェンもクローディアも、遠くから見守っていたユリエまでもが眼を見開いた。一日でここまで上達するとは思っていなかったので、驚きを隠せなかった。
たたたっと此方に近寄ってきたシャルルを取り囲むようにして、ルーウェン、クローディア、ユリエがわんやわんやと騒ぎ立てる。
「すげぇな、よくもまあこんなに上達して」
「えへへ、凄いでしょ♪」
「ええ。本当に驚いたわ…閃光の教え方が上手いのかしら?」
「これならもう心配いらないね、シャルル」
と、そこで漸く奥の方の敵を片付けて戻ってきた閃光と目が合った。
「おかえりなさい、閃光」
「ああ。向こうの敵が片付いたから加勢に来たんだが…必要なかったみたいだな」
「シャルルのおかげでね」
「よぉ閃光、お前よくあそこまでシャルルの剣を上達させたな…っと?」
「せ―――ん―――こ――――――!!!!」
「うおわぁぁぁぁっ?!」
思いっきり閃光に向かってシャルルが突撃(恐らく抱き付き)していき、閃光は勢いに負けてバターン!と押し倒された。
またもや後頭部を打ったのか、頭を痛そうに押さえながら、自分の上に乗っかるシャルルを半目で見上げる。
「閃光!あたしやったよ、これでもう一人前だよねっ」
「…そうだな…、いてて……っつー」
「えへへ、ごめん、…でも、ありがとう閃光!」
「…ッ!」
目の前、しかも間近にあるシャルルの可愛らしい笑顔に、閃光は思わず真っ赤になった。




なんだか微笑ましい雰囲気の二人を尻目に。
ルーウェンとクローディアとユリエが、思わず心の中で同じ事を思った。
「…なあ。もしかしてシャルルがあそこまで上達した理由は」
「………いわゆる、愛の力…?」
「かな…?」
果たして本人達が気付いているのかどうかはおいといて、まあ兎に角、危険因子が一つ消えた事への安堵の意味を込めて、三人は胸を撫で下ろし、仲つむまじい二人を見守るのであった。










あとがき。
メイキングキャラ達(ルーウェン、クローディア、ユリエ、シャルル、閃光)のひとときのお話でした。
シャルルは剣使いの中で一番剣使えなさそうだなぁ、と思って考えたネタでした。それでも大次元断まで覚えてるんですけどね。
とりあえず色々閃光が不幸ですが、それはお気にせず(待て)。メイキングキャラは他にも沢山いるので、他の皆も出してやりたいです。
ここまで読んで下さって、有難うございました!楽しんで頂ければ幸いです。



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