「――――はっ!てやっ!おらぁっ!」 ここはダロス大河の裏世界。ダーク太陽が照りつけるこの世界は、妙に薄暗く、尚且つ血で染め上がったような恐ろしげな雰囲気で満ち溢れている。 目の前には、樹巨人族と妖花族が数体。どれも殺気に満ちた眼で此方を睨んでいる。 真っ先にその中に駆け込んでいったルーウェンは、早々に敵達とあいまみえる事になっていた。 装備している魔王の剣を思いっ切り斬り返し、襲い掛かろうとやって来る敵を薙ぎ払う。が、ルーウェンが敵を倒すより先に、敵はぞろぞろと彼の回りに集まってくる。すぐに、ルーウェンは囲まれてしまった。 「チッ…」 一体の妖花族が技を繰り出そうと、キィィ、とそれ独特の声をあげた瞬間――後ろから、その妖花族を鋭い剣が真っ二つに切り裂いた。 「閃光!」 今の剣を振るった者の名を呼んだ。 呼ばれた者―――閃光は、ルーウェンの方に走って近づきながら声をかける。 「先に行き過ぎだ、ルーウェン、やっぱりお前は好戦的だな」 ズザッ、と大地を蹴って、閃光が此方に辿り着いた。それからお互いの目線を見合い、同時にルーウェンと閃光はニヤリと笑う。 「お前が来るのが遅いんだろ?俺が何体か先に倒しちまったぜ」 「すぐに追いつく」 ドン、と二人は背中合わせに立ち回り、未だ目の前にごまんといる敵に剣を構える。瞬間、同時に二人の技が炸裂する。 「竜巻破裏剣!!」 「月光一閃斬!!」 それぞれの技が決まり、各々が再び背中を合わせた時には―――、技を決められた敵は既に倒れていた。 「フン。俺達にかかればこんなもんだ!」 「さっき囲まれてたくせに何を言ってるんだルーウェン…ッて、おい、上!」 何かに気付いて閃光が指差したのは、ルーウェンの真上。は?と思って見上げてみると、そこにはダーク太陽から降り注ぐ無数の砲弾―――その名も、ダークキャノン。 「どわ―――ッ?!!!っと、っは、ひっ!はいいっ!」 慌てて右往左往にぴょんぴょんと動き回り、必死にダークキャノンをかわす。しばらくしてようやく止まったダークキャノンに、ふう、とルーウェンは安堵の息を洩らす。……が、その時。 「キィィィィ!!」 背後から、妖花族の金切り声が聞こえて―――振り向いた瞬間、ルーウェンに向かってフラワーハザードがジグザグに地を割り襲い掛かってくる様が見えた。 「うわあああぁぁぁ?!!」 「ルーウェ―――ン!!」 ドガーン!と思いっきりルーウェンが吹っ飛んだ後も、まだしばらく戦闘が繰り広げられる音は鳴り止まなかった… 怪我過ち 「………で、しくじって、もろに受けたフラワーハザードでついたのが、この生々しい怪我…と」 ルーウェンの腕についた怪我を薄目で見下ろしながら、クローディアは呟いた。 先程とはうってかわって、ここはホルルト村。 なんとかあの敵集団を倒し、帰って来れたから良かったものの。さきの戦闘で怪我をしてしまったルーウェンが、閃光に連れられ、クローディアのもとに治療を受けに来ていた。 「相変わらずね野蛮人。どうせまた単身敵に突っ込んで、返り討ちにでもされたんでしょう?」 無気力に野原の上に座り込むルーウェンを、呆れた風にクローディアは見下ろしながら、そう言った。 「…全くその通り…」 「オイ、閃光」 ルーウェンの隣に立つ閃光がボソリと肯定の言葉を呟いた。ルーウェンは閃光を諌めると、クローディアに向かって声を荒げる。 「お前もいちいちうるせーんだよ、御託はいいから早く回復してくれよ」 「あら、怪我してきたのはそっちでしょう。なんなら回復してあげなくてもいいのよ?」 「………お願いします僧侶様」 畏まった言葉を述べると、よろしい、とクローディアは納得したように言い、ルーウェンの隣に座り込む。そして、スッ、と怪我に手を翳す。 「ギガヒール!」 クローディアが魔法を放った瞬間、あっと言う間にあのひどい怪我は治っていった。 回復の光がフウッと消えると、クローディアがひとつ息をついた。 「はい、これでいいわ。でも一応包帯巻いて安静にしておきなさいね」 「なんで。治ったならいいじゃねえか」 「駄目よ!見た目消えたように見えても、無理したらまた開いちゃうんだから。ほら、早く腕出して」 「…わかったよ」 渋々腕を出すと、クローディアは慣れた手つきで包帯を巻いていく。 くるくる、くるくる。そんな様子を、ルーウェンはひたすらに無言で見詰めて。 やがて数分経てば、そこには小奇麗に包帯がきちんと巻かれていた。 やっぱりなんだかんだで、こいつは回復役をかって出ているだけあって、こーゆーのは上手いんだよな……と思い、ほう、と息をつく。 そして、クローディアを見上げると、やや照れながら、俯き加減に呟いた。 「……ありがとよ」 「! …野蛮人がお礼を言った……」 「お、お前なあ!俺を一体なんだと思ってやがる!」 折角お礼言ったのに損した、と皮肉げに、ルーウェンは独りよがりにぶつくさと呟いた。 回復がほぼ終わったのを見かねて、先程からずっと隣で立っていた閃光は、すっと背中を向けて歩き出した。 「閃光?」 「もう心配ないみたいだからな、俺は先に師匠のところに行く」 「……とかなんとか言って、シャルルの所だろ」 「ッ、アホか!」 一気に赤面した閃光を面白そうにニヤニヤしながらルーウェンは見ている。ごほん、と閃光は焦りながら一度咳払いした。 「……俺の事はおいといて、だな。お前も、いい加減あいつの照れ隠しに気づけよ?」 「は? おい閃光、どういう意味…」 「じゃあな」 ニヤリ、と最後に不適な微笑を見せて、閃光はスタスタと去っていった。 「…………あいつの照れ隠しに…気づけ…?一体なんのことだよ………」 閃光に言われた言葉に、ルーウェンはひとり疑問を投げかける。いくら悩んでも全く答えは出て来ず、ああ駄目だ、わからねぇ、と結局ギブアップした。 「…ちょっと!そこの野蛮人!」 と、突然クローディアが声をかける。野蛮人、という勝手につけられた嫌な呼び名に、思わずルーウェンは顔をしかめながら振り向く。 「あ?なんだよ、俺は野蛮人じゃねぇっつってんだろ。だいたい、人が考え事をしている時に…」 「―――いいからこっち向きなさい!」 「はいはい…」 渋々ルーウェンは閃光が立ち去っていった方から目を離し、クローディアの方に向く。 「で、なんだよ。」 「…………ちょっとじっとして」 「ッ?!」 クローディアはいきなり、ルーウェンの方に手を伸ばす。長く細い指が顔に触れそうになり、慌ててルーウェンはずざっ、と後退する。 「ななッ?!なっ、なんっ……」 「動かないの」 有無言わせない声に咎められ、思わず体を強張らせる。と、再び、指が近づき、今度はルーウェンの顔に確かに触れた。そして、頬を滑り、眼の下辺りに辿り着くと…… ぐいっ、と。 クローディアが、指の腹で何かを擦りつけた。 「…?……ッぐあ、しみる――――ッ!!!」 「薬塗ったのよ。頬をちょっと切ってたみたいだから」 「だからってな、こ、こんなしみる薬……あだだだだだだだ!!!!」 じんじんとする目の下に手を翳し、ルーウェンはうずくまりながら必死に堪える。歯を食い縛っても時折痛みに耐えかねた声が洩れ、なんとも情けなく感じた。 「ったく、少しは我慢しなさい」 「痛いんだからしょーがねーだろ……!!!」 呆れたようなクローディアに、ルーウェンは必死で反抗する。はあ、とクローディアはその様を見て溜息をついた。 「野蛮人が怪我してくるから悪いのよ」 「…名誉の負傷だ」 「何処がよ。だいたいねぇ、あんたの治療をしに来た時だって、閃光がものすごい慌てて呼びに来たから、そんなに重症なのかと思って、急いで来てやったって言うのに………」 「あーあー、そりゃーご迷惑をかけてすみませんでしたねー」 「な、何よその態度!私がどれだけ慌てて来たか知りもしないで……!」 ルーウェンのだらけた態度に、クローディアが怒る。眉を吊り上げ、眉間にしわを寄せて。いつもどおり、口うるさい奴だ…と思ってルーウェンは溜息をつきかけた。 が、その時。 頭に先程閃光に言われた言葉が、突然さあっと浮かんできた。 『…………お前も、いい加減あいつの照れ隠しに気づけよ?』 (もしかして、あいつの照れ隠し……って) チラリ、とルーウェンはクローディアを見やった。 そこには、相変わらず怒った表情をしたクローディアの姿があった。何かを叫んでいるようだが、その辺はよく聞こえない。 その変わりに思い出されるのは、先程のクローディアの言葉のひとつひとつ。 『そんなに重症なのかと思って、急いで来てやったって言うのに………』 『私がどれだけ慌てて来たか知りもしないで……!』 それらをよくよく考えてみて、ルーウェンが気付いた、一つの答え――― (…まさかな。いや、だけど…) 数秒、言うかどうか躊躇った。でも、聞かなければ、この胸の痞えがずっと取れないような気がして。 意を決して、ルーウェンはクローディアに問う。 「………もしかしてさ、お前、俺の事を心配してくれてたのか…?」 「!!!」 いきなりのルーウェンの言葉に、クローディアが硬直する。顔が赤いのは、決して怒っているからだけではないっぽく見えた。 (……おいおい、図星かよ。マジありえねえ……) この口うるさい、いつもルーウェンに憎まれ口ばかり叩いている、このクローディアが。まさか自分の事を心配して、こんな事を言ってくれていたのだと。 そう考えるだけで、何故かルーウェンの頬もまた、じんわりと赤く熱くなってくる。 「ッ、い、いきなり何言うかと思ったら……!」 「………俺の方が驚きだっつの。まさかお前がなあ……」 「何ッ?!い、意外だって言いたいの?!」 「……まあそんなとこだな…。」 「わ、悪かったわねっ!らしくなくてっ!」 なんだか、いつも道理に適っている筈のクローディアの言葉が、しどろもどろになってきている。なんとも慌てているのがバレバレで、尚且つ、その様子が、なんだかとても可愛らしく見えた。 思わずルーウェンは、らしくないクローディアの慌てぶりに、ぷっ、と噴出す。 「………ぷはっ、はっ、はははははっ!」 「?! な、何笑ってるのよ!」 「や。なんかお前も、可愛いとこあんだなーと思って」 「………!!!」 あっけからんと言われて、クローディアの頬が一番真っ赤に染まり上がった。 「これが閃光の言ってた『照れ隠し』かー…気付いちまえば結構いいもんだな」 「ッな、何言ってんだか、わけわからない!!」 すっかりルーウェンのペースに陥ってしまったクローディアは、悔しそうな呻きを洩らしながら、真っ赤になって声を荒げている。 初めて見た、しおらしいクローディアを見つめながら、ルーウェンは思わず、上機嫌そうな笑顔が顔に出る。 それを見て、またクローディアがギン!と思いっきり睨んできたが、もはやその辺はあまり気にならなくなっていた。 「まあ、その、なんだ。………ありがとな、クローディア。心配してくれて」 「…………ど、どう致しまして!」 思わず言われた礼の言葉と、名前を呼ばれた事についてのダブルパンチ。興奮が最高潮に達してしまったクローディアは、ついには耐え切れず、ふいっとそっぽを向いた。 「っく、くくっ、ははははははっ」 「いつまで笑ってるのよ……!」 「はは、俺、今日怪我して良かったな。いいもん見ちまった」 「………け、怪我人がそんな偉そうな事抜かしてんじゃないわよ――――!!!」 流石に、争い嫌い・人が傷付くのが嫌いなクローディアに、この言葉は禁句だったようで。 この後、クローディアが自前の弓を持ち出し、いい気になりすぎたルーウェンに、鉄弓制裁を加えそうになっている様が目撃されたのは、また別のお話である。 あとがき。 ウチのディス2戦士♂×僧侶♀、ルーウェンとクローディアのお話でした。 クローディアは恐らくツンデレな性格だと思うので、結構意地張ってます。それでルーウェンもいつも気付かずに口喧嘩しているのですが、何かの切欠で気付いてやってくれたらいいな…と思ってこんなお話が出来ました。 結局最後は落としました…(笑)。因みに閃光は友情出演です。男二人はいいお友達なんです。 それでは、ここまで読んで頂いて有難うございました。楽しんで頂けたら幸いです。 ブラウザバックでお戻り下さい。 |