ジ――――――――――――――――………。

男は、ただひたすらにそれを凝視していた。





アノイアンス





「…………」
魑魅魍魎(ちみもうりょう)と、跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)。形状をひとつに留めず、様々な地平が折り重なり、ノートリアスと呼ばれる敵が絶えず徘徊している、ここ――無限なる世界、アイテム界。
そんな世界のとある場所に、一人の戦士が、ボケーッとただひたすらに立ち尽くしていた。
勿論、今、周りにはうじゃうじゃとノートリアス達がせわしなく蠢いて、戦闘中だという事は目に見える程明らか。彼自身も、今こんな風にボサッとしていて良い筈がないと、経験上嫌と言う程分かっているのだが。それでも、彼はそれを止められなかった。
彼の名は、ルーウェン。アデルがロザリーと共に戦い始めた時からずっといる、古株の戦士。
そして、彼がこのまま動けないでいる理由は、目の前の女の動向にあった。
ルーウェンと同じ古株の一人である僧侶、クローディア。実際に師ではないが、共にアデルを師として慕い、昔から顔をあわせてきた一人。
そんな彼女、クローディアは、何故かまた今のルーウェンと同じように、更に遠くをジーッと見据えていた。
その先にあるもの――つまり、クローディアが見ているもの。それは、今ノートリアスと戦っている果敢なる槍使いであった。
最近加入したばかりの侍・若狭。通称『若』。そう、クローディアは、この若をずっと見据えているのである。
この光景を見ていると、胸がひどく重苦しい。ギュウッと心臓を締め付けられて潰されてしまいそうな、そんな錯覚がルーウェンを絶えず襲った。
(なんだよ…なんなんだよ、この訳わかんねぇ気持ちは)
自然と、剣を持つ手が強くなる。グッと剣の柄を握り締めすぎて、ぷるぷると切先が震えている。
何故か、若の事を見るクローディアを見ていると、とても嫌な気分になる。それならば見なければいい。彼女が誰を見ていようが、そんな事はどうでもいい。心では分かっているのだが、反比例するように視線は外れない。あまりに矛盾する思考と、いう事をきかない体に、益々ルーウェンの苛立ちは高まっていった。
そうだ―――この気持ちは、何処か怒りに似ているような気がする。
けれどどうして?なんで自分は怒っている?
解決口の見えない心境に、ひたすらルーウェンは悩んだ。相変わらず、視線はクローディアを見つめたままで。
そうしていると、ふと、若ばかりを見ていた筈のクローディアが、ちらりと此方を向いた。
「ッ!」
まずい、じっと見てたの、気付かれた……?!
慌ててパッと視線を外し、横を向く。焦ったせいか、顔が紅潮して熱い。ツウッと冷や汗がこめかみの辺りを伝うのを感じる。
と、微かにルーウェンの足元を、正面から向かってくる風が凪いだ。それに気付いて目の前を見上げると、此方にダイブするように向かってくる魔翔族の姿が見えた。
リンプンを散らばせながら、真っ直ぐに此方の方へ。アレは恐らく、魔翔族の最終奥義・きりもみダイブ。ルーウェン方が、あの魔翔族よりレベルは上回っているとはいえ、あの奥義をくらえばただでは済むまい。
この距離では、剣を盾にして受け止め、逆に押し返してやるには、体勢を整えるのに間に合わない。それならばやる事は一つ、とルーウェンは魔翔族が彼の体を捕まえようとしたのと同時に、それが届かないくらい自身の体勢を低くし避けた。
鷲掴みしようとして外した魔翔族は、ずるっと体勢を崩して隙だらけ。こうなってしまえば、この集団一番のパワーファイターの力の見せ所。思いっきり剣を両手で振り回し、慌てて再び空に舞って逃げようとするその動きより早く、ヒュウゥゥと竜巻がその肢体を囲んだ。
「―――くらえっ!竜巻破裏剣!!」
最後に、ズバァッ!!と風と一体化した大剣で、魔翔族の体を真っ二つに切り裂いて。
風が止む頃には既に、ノートリアスの姿は消えていた。
「ふうっ…、あぶねーあぶねー」
間一髪気付いたから良かったとして、後少し遅ければ不覚にも怪我をしていたかもしれない。反省材料だな、と自嘲気味に呟いた所で、スッとルーウェンの体に影がかかった。
ああ…、ある意味戦いはまだ続きそうだ、と心の中で想い、溜息を吐きながら、彼は面倒臭そうに顔を上げた。


「ちょっと、そこの野蛮人!!」


………やっぱり、きた。
「なんだよ、クローディア」
そう、先程まで向こうで若を見ていた筈の僧侶、クローディア。ルーウェンの目の前で腕を組んで仁王立ちし、その美麗な顔立ちに、眉を吊り上げ、口をへの字に歪ませ、眉間に皺を寄せて。明らかにそれは、彼女の御決まりの怒りの表情だった。
「あなた、さっきの戦いは何?一歩間違えたら怪我する所だったじゃないの!」
き、気にしてる事を…。
先程自分で反省したばかりの事を、再来されるように言われて、ルーウェンは思わずカチンとなった。
「うるっせーな、勝ったんだから別にいいだろ」
「まあ…!何よその言い草!だから貴方は猪突猛進でワンパターン戦法の野蛮人なのよっ!!」
「野蛮人野蛮人連呼するんじゃねえ!こんの御節介女!!」
あっと言う間に二人のやり取りは、売り言葉に買い言葉。戦闘中にも関わらず、全くお構いなしで、大声での怒鳴り合い。周りの仲間達は、ああまたか、と呆れ顔で二人のやりとりを傍観していた。
「大体、悪いのは戦闘中にボケーッとしてたのはあなたじゃない!あんなんじゃ敵に狙って下さいって言ってるようなものでしょう?!」
「………ッ!」
柄にも無くボケーッとしていたのは、お前を見ていたからだ。
…だなんて、素直にルーウェンが言える筈もなくて。代わりに出てきたのは、心の中でさっきから膨張している、毒づいた闇の言の葉。


「……っるっせーよっっ!!もう、お前の説教なんて聞きたくもねえ!!うんざりなんだよ!!お前なんか、どっか行っちまえっ!!」


「――――ッ!」
「…っあ……」
胸の中の闇を、吐き出すように。思いっきり叫んでしまってから、ルーウェンはハッと我を取り戻した。
自分の言ってしまった事の重大さに、表情を、後悔と焦りで歪めながら。
「分かったわよ…、何処かに行けばいいんでしょう?…わ、私だって、あんたみたいな野蛮人の顔なんか見たくもないわ!!さよならっ!!」
クローディアは早口でそう捲くしたてて、デールを使って先にホルルト村に戻っていってしまった。
「………怒らせ、ちまった……」
当然のことだ。あれは単なる八つ当たり。自分の中に渦巻く、訳の分からない、行き場の無い感情を、彼女にぶつけてしまうなんて。……最悪だ。
ひどい自己嫌悪に、ルーウェンは呆けて立ち尽くす。そんなルーウェンに、事の成り行きを見ていた人達の中の一人―――彼のマブダチでもある侍、閃光が、スタスタと近づいて呼びかける。
「おい、ルーウェン」
「……閃光か」
「お前、どうしたんだ?確かにお前は口が悪いし、いつもクローディアと口喧嘩していたが、あそこまで言う奴じゃないだろ?」
「……………」
無言のままのルーウェンに、ふう、と閃光はひとつ溜息をついた。
「…まあ、詳しい事は戻ってから聞くさ。それと、ルーウェン…まずお前に言わなければならないことがあるんだが」
「…なんだ?」
「さっきクローディアが使っていったデールが、今手持ちの最後のデールだった」
「は?」
「つまりイノセントタウンに着くまで、俺達はホルルト村に帰れないわけだ。…まあ、責任持ってタウンに着くまで『一人で』頑張るんだなルーウェン」
「はああああ――――ッ?!!ちょっ、待て閃光!!!」
「幸運を祈る」
ぽんぽん、と閃光はルーウェンの肩を哀れそうに二度叩いて、足速にベースパネルに戻っていってしまった。そこでハッと気付けば、いつの間にかステージ場には既に、仲間はルーウェン以外一人もいない。いるのは未だうじゃうじゃと蠢いているノートリアスだけ。つまりは、閃光の言うとおり、『孤軍奮闘してイノセントタウンを目指せ』宣言。
「ち、畜生ぉ…!帰ったら覚えてろよ…!」
かくして、数時間かけてルーウェンは敵を一掃し、ヘトヘトになりながらも、無事(?)にホルルト村に帰還したという。




「で、何があった?ルーウェン」
「………」
やっと村に戻った頃、孤軍奮闘の疲れでぐったりとうつ伏せに倒れているルーウェンに、閃光は容赦なく上からそう声をかけた。
披露困憊のせいか、はたまた言うのが忍ばれるのか、ルーウェンは暫く黙っていたが―――むくり、と起き上がり、胡坐をかいて座り込むと、ゆっくりと話しだした。
「……俺…、なんだかこの間からおかしいんだ」
「お前がおかしいのはいつもじゃないのか?」
「だっ、なんてこと言うんだよお前は!……と、兎に角…、この間から、おかしいんだよ」
「ほう。例えばどんな時に?」
「……く、クローディアが……若狭のこと…見てる、時」
言いたくなさそうに、けれど言わねば伝わらないと、しどろもどろにルーウェンに打ち明けられて、閃光はああ、と納得した。
そう言えば最近、クローディアは戦闘での自分の役割もそこそこに、ちらりと若狭を見ているなーと閃光も感じたのは確かであった。
「若狭の事見てるあいつを見てると……変な気持ちがして……柄にも無く不安になっちまって、イライラして……どうすればいいのか分からねえ。こーゆーの、なんつーんだ…?」
真剣な表情で、本当に柄にもなく切羽詰ったような表情で、そう切実に話したルーウェンに―――閃光は、ふうっと呆れたように目を伏せて息をついた。
「なんだ、そんな事か」
「なっ?!そ、そんなこと―――?!」
不安でたまらないルーウェンの心境を、閃光の僅かその一言で一蹴されて、ルーウェンは声を上ずらせて詰め寄った。
流石に怒ったルーウェンをどうどうと諌めて、閃光はなんだかニヤニヤと笑みながら、びしりとルーウェンの顔を指差した。
「な…、なんだよ」
「いいかルーウェン、よく聞くんだな。お前の今のその心の名は……『嫉妬』だ」
「しっ…?!」
閃光の言った想いの名に、思わずルーウェンは眼を見開く。驚きで声がやや上ずっている。
「そうだ。いやいや…お前はずっと素直になれない野蛮人とばかり考えていたが、可愛い所もあるじゃないか。本人は認めずとも意識してるという証だな」
「なっ何勝手に話進めてるんだよッ!!お、俺が嫉妬?!そんなの有り得るわけが…!!」
「じゃあ、それ以外になんと説明する?他の男を見ているクローディアに、苛ついて、不安になって、胸が苦しくなるんだろう?」
「うっ…」
口では否定していても、図星をさされたように口をつぐんだルーウェンを見て、閃光はフッと溜息をつくように微笑んだ。
「心配するな。それは自然なことだ。お前がクローディアのことを想うが故に、いつかは生まれる感情だったんだ」
「………閃光」
マブダチの言う事に関心すると共に、ん?とルーウェンは違和感を感じる。
「っつーか、なんかお前妙に詳しいな…」
「フッ…これでも、恋愛事ならお前よりは経験値高いぞ?」
ああ、あの自由奔放・マイペース娘を繋ぎとめておくのに、相当苦悩したのだなあと、容易に想像がついた。
「つか、嫉妬といえば、お前若に対してライバル心燃やしてなかったか?」
「問題ない。若はシャルルに近づいてないからな」
「あ、そー……。」
同じ侍であるという事に対してのプライドよりも、あの娘っ子優先ですか、と思わずルーウェンは呆れた声で返事することしか出来なかった。
恐らく若狭は、シャルルの半径約3メートル以内に入ると、閃光の嫉妬を受けて余計なトラブルに巻き込まれると知っているのだ。だからこそ最近、あの娘っ子から逃げ回っている光景が多々見られたのも納得がいった。
「まあ、それはいいとして。さっさとクローディアを探すんだな。喧嘩したままだと後が辛いぞ」
「………わ…分かった」
思わず苦笑いを浮かべそうになったところで閃光にそう諭され、ルーウェンは素直にそう返事をした。
よし、それでいい、とその返答に納得気味で閃光はルーウェンの背をばしんと叩き、つんつんと東の空の方を指差した。どうやら、向こうにクローディアがいる、というジェスチャーらしい。サンキュ、閃光、とルーウェンはきびすを返すと、早足で其方の方に走り出した。
「さて………、漸くあの二人は進展するのか?……一応、友として、後でしっかり問い詰めてやらなきゃならないな……。ククッ、覚悟しておけよルーウェン……」
一人残された閃光が、こっそりそんな怪しい目論みを呟いたせいか。走っている途中、ルーウェンが僅かに悪寒を感じたのは気のせいではないらしい。




「この辺か…?」
閃光の指差した方向をそのまま進んできたルーウェンは、ホルルト村の外れの森にまで辿り着いてしまった。後ろを振り返ってみれば、アデルの家が遠い。結構走ってきたらしい。だが、一向に探している張本人の姿は見えて来ず、マブダチには悪いが、果たしてあの情報は本当に合っているのかと薄々不安になってきた。
そんな事を考えていると、ふとルーウェンは森の奥に気配を感じる。しかも此方に近づいてくるようだ。数秒耳をすまして待てば、すぐに足音も聞こえてきた。
「……誰だ?」
ルーウェンが問いを投げかけた瞬間、その者は緑の中からゆっくりと姿を表した。
「…って、若?!」
「…………」
まさかあの若狭がこんな村外れの森にいるだなんて思っても見なかったので、思わずルーウェンは素っ頓狂な声を挙げた。若狭は相変わらず興味なさそうな、涼しい表情をしている。
(…っつーか、若がここにいるってことは…もしかして、クローディアと…?!)
一番嫌な展開を思わず想像してしまい、ルーウェンの口元がひくつく。ルーウェンの心情を察したのか、若狭は目線だけを向け静かに呟く。
「……拙者は人気の無い場所を求め、此処で修行をしていたまで。拙者がこの森で会ったのはお前だけだ」
「おっ?あっ、そ、そっか……」
まるで心の中を見られていたみたいに、ピンポイントな答えが帰って来たので、ルーウェンは思わず驚愕と安堵が入り混じった声で、しどろもどろに答えてしまった。そんなルーウェンの様子など少しも気にせず、若狭は背中を向けて、もう一つだけ呟く。
「……さきに、この森に入る何者かの気配を感じた。恐らくまだ奥に居る筈だ」
「!…それって」
「後はお前次第だがな」
言い、立ち去ろうとする若狭に、慌ててルーウェンは言葉を投げかける。
「あっ!…そ、その…ありがとな、若!」
「………礼は要らん」
短く言い残して、若狭は去っていった。
「…若、いい奴だな」
あまり喋らない上に、皆から距離を取っているから分からなかったが、もしかしたら若狭には若狭なりの優しさがあるのかもしれない。変な嫉妬心を燃え上がらせていた自分がなんだか恥ずかしく思えてきて、がりがりと頭を掻きながら、若狭の情報通り、ルーウェンは森の奥へと進んでいく。
そうして暫く歩いていくと、流石に太陽の光も深い緑で遮られてくるのか、徐々に暗くなっていく。これで太陽が沈んだら相当暗くなるだろう。早く探し出さなくてはと思い、歩みを早めながら、無造作に草原を踏みしめて森を捜索していく。
「っくそ、何処にいんだよ、クローディア…!」
焦りで額が汗で滲む。ぎり、と口の端を噛み、篭った思いを吐き出すように、大きくルーウェンは彼女の名を叫んだ。
「………クローディア!クローディアっ!クローディア――――!!!」
「五月蝿いわねっ!!何度も何度も人の名前呼ばないでよっ!!」
がさ、と茂みの中から、見慣れた僧侶の女性が姿を表したので、ルーウェンは思わず大きく眼を見開き、硬直する。
「…クローディア…?」
「……あ…」
どうやら、自分の名を呼ぶ声につられて、条件反射で出てきてしまったらしく、言った後に後悔で萎れるように、弱弱しく後ずさる。
このままだとまた逃げられてしまいそうなので、慌ててルーウェンはクローディアに近づき、逃がさないように彼女の腕を掴んで引き止めた。
「な、何するのよ!」
無理矢理振り解こうとする腕を、しっかりと握り締めながら、ルーウェンは重苦しい口を開く。
「えっと…っその、………さ…さっきは悪かった!俺、お前に酷い事言っちまって……!」
突然の謝罪の言葉に、クローディアは口を閉ざし、無言のまま俯いた。
「………」
「…クローディア?」
「……何よ、何よ何よ何よっ!!簡単に謝るんじゃないわよっ!!私が、どれだけ傷ついたと思ってるのっ?!…あんたに、あんなこと言われて…!そしたら…勝手に、涙…出てきちゃっ…て…、本当に、私、心臓が、…張り裂けちゃうんじゃ…ないかって……思っ……」
クローディアの体が、徐々に弱弱しく震えだす。俯いているので分かり難いが、よく見れば目元が少々赤く、うっすら涙も溜まっている。更にはその声に小さな嗚咽も混ざっていて、先程まで泣き腫らしていたことがすぐに分かった。ルーウェンは、そんな彼女の様子に――きゅう、と、胸が強く締め付けられたような気がした。
「……ごめん…!」
再び、謝罪の言葉を口にするとともに、ルーウェンはクローディアを抱き締める。
初めてこうして触れた彼女の体は、折れてしまいそうなくらい華奢で、か細いものだった。
「俺、嫌だったんだ、お前が若の事を見てるのが…!」
「…え?」
「お前最近、戦いの時とか…ずっと若の事見てるだろ。そうしてるお前を見てたら俺、何故かイライラしてしょうがなくなるんだ…それなのに、お前から目を逸らす事は出来なくて……こんな気持ち、初めてで…わけわかんなくて。それでお前に八つ当たりなんかしちまって…傷つけたよな、泣かせちまったよな…本当に、悪かった…!!」
素直に、自分の気持ちを全て話すと、クローディアが真っ赤になって縮こまっていた。
「…そ、それってつまり……」
ぼそぼそと、曖昧にその理由を問いかけるクローディアに、ルーウェンは、もうここまで言ってしまったら、もうどうにでもなれと、やっきになって、ずっと呑み込んで隠していた言葉を叫ぶ。


「……そうだよ、俺はお前が好きなんだよっ!!悪いかっ!!」


「………」
「……迷惑か?」
「あの、ね。ルーウェン」
「?」
「私が…若のこと見てたのは、若の事が気になってたからじゃないの。…ただ、若は攻防に優れてるから…や、野蛮人も、ちゃんと防御を考えればいいのに…って思ってただけよ」
「はい?…何、それってつまり…俺の事を考えてたのかよ…?」
「………」
小さく、こくりとクローディアは頷いた。
「な、なんだよそれ…!!それじゃ必死になってた俺がバカみたいじゃねーか?!」
「だ、だって実際バカじゃない、だから野蛮人なんじゃない」
「るせーよ!」
真っ赤になって叫ぶルーウェンを、目を閉じたまま、チラリ、と見据えながら、俯いた状態でクローディアは小さく呟く。
「でも、私は………あんたの事、嫌いじゃ…ないから」
「…え?ちょ、もう一回…」
「も、もう言うわけないでしょ?!な、何度も言わせないでよ!!」
正直、あの告白の返事めいた声は聞こえてはいたのだが、思わずもう一度聞きたくなって言い返すと、クローディアは案の定そんな見た目素っ気無さそうな言葉を吐いてそっぽを向いてしまった。
いつもならカチンとくる筈の彼女の言動一つ一つでさえ、今では不思議と『可愛いな』と思えてくる。
今なら、どんな悪戯をされようが物言いをされようが、変わらずあの盗賊娘に執着する、マブダチの気持ちが分かるような気がした―――自分には一生分からないものだと、ついこの間までは思っていたのだが。そんな今までの考えを覆すほどの、この胸の中にある温かな思いは、きっと魔薬だ。
「ま、全くあなたは相変わらずデリカシーがなくてっ…な、何も分かってな」
「分かってるって。お前こそ相変わらず相変わらず素直じゃねー奴だな」
「わ、私の何処が?!」
「そうだろ?…ほら、今も、なんだかんだでお前から抱きついてんの気付いてないのか?」
「――――ッ?!」
はた、と言われて気付いてみれば、確かに今背中に腕を回して抱きついているのはクローディアの方。先に抱きついたのはルーウェンの方なのだが、いつのまにか反転してしまったらしい。
「ほらな?俺のいうとおりだろ?」
「………―――や、やっぱりあんたは野蛮人よ――――ッッ!!!バカ――――ッッッ!!!!」
図星をさされて、一気に恥ずかしさが込み上げてきたのか、接近状態からいきなりクローディアのアッパーカットがルーウェンにクリティカルヒットする。当然の如く、ルーウェンはそれで吹っ飛んでしまうわけで。
漸く、互いの想いが通じたと思ったのだけれど…やっぱり、この二人は相変わらずなのか?…と、後にルーウェンの愚痴じみた話を聞いた閃光が、溜息気味に思ったという。










あとがき。
はひゃー!お久し振りに書いてしまいました、戦士×僧侶な小説。
いつまでもツンデレで素直じゃない二人ですが、漸くくっつく?ことが出来ました…!やっぱりちょこちょこ侍の閃光が絡んでくるのは仕様です。だってマブダチですから。(あ
もう最後の辺りは、自分でもこっ恥ずかしくてとんでもない遅筆になってましたが…(汗)。なんとか書きあがって安堵しております。
それでは、ここまで読んで頂いて有難うございました。お楽しみ頂けましたら幸いです。



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