『愛』こえる



「ふふふ〜ん♪ふんふんふ〜〜〜ん♪」
ここは魔王ラハールが支配し、尚且つ自らの住いとしている城―――魔王城。そんな城の一角で、妙なテンポの鼻歌を鳴らし、リズミカルなスキップをしながら歩いている、ひらひらフリルに可愛らしいリボンを頭につけた少女がいた。
濃い紫や灰やら黒などといった、どす黒〜い内装とは全く正反対の色合いがまた不自然であったが、そんなこと既に慣れたように、なんの躊躇もなくこの不気味な廊下を少女は歩いていく。
先程から少女、少女と言ってはいるが、これでも彼女は既に千年以上もの生の時を過ごした、天使。その名を、フロンといった。
フロンが相変わらずスキップをしながら向かう先は、この城の主である、俺サマ至上主義魔王ラハールの元である。既に昼の時間も過ぎているというのに、全く寝床から出てこない彼を気にかけた彼の家臣たちから、「様子を見て来て下さい」と頼まれたのであった。
そうして、漸くラハールの部屋の前まで着くと、勢い良く息を吸い、声を挙げる。
「ラハールさーん。おはようございますー!まだ寝てますかー?!」
声が木霊を残して響く様を見送って、耳を澄まして、約数秒。返答は全く帰ってこない。
「んもー、仕方ないですねぇ。ラハールさんたら何してるのかしら」
意を決して、フロンは彼の部屋に足を踏み込もうとした…その時。



「あ、あ、や、止めて下さい、殿下ぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!」



「?!!」
フロンは、部屋の奥から聞こえてきた声に驚き、咄嗟に足を止めた。
「い、今の声は?」
悲鳴じみた声色ではあったが、フロンは今の声に聞き覚えがあった。ラハール第一の家臣である、悪魔エトナ。最も、いつも自分をしっかりと保ち、決して弱みを見せない彼女のこんな悲鳴のような声は、初めて聞いたが………。
いけないとは思いつつも、耳を立てて聞き入ってしまう。
すると、また部屋の奥から声が聞こえてきた。



「なんだエトナ。お前らしくないぞ」
「あ、あたしはこれでも結構デリケートなんですよ!」
「ふん。しかし、怖がっていてはどうにもならんだろう?」
「そ、そうですけど…」
「ならば、やるしかない。お前だってこのままは嫌だろう」
「で、でもぉ………あ、あぁぁああっ!!でで殿下、止めて下さいぃぃぃぃぃ!!!それ以上は駄目えぇぇぇぇぇぇ!!!!」



弱弱しく、冷静さが全く感じられない、ひどく取り乱したエトナの声とは対照的に、ラハールの声は異様に冷静だ。しかも、なんだかいちいち無性にいやらしさを感じてしまうのは気のせいなのだろうか………。
約一連の会話を聞き終えて、フロンの脳裏にとあるものが思いついた。
「ま、ま、ま、まさかっっっ!!もしかして、こんな昼間から…いえいえ、そんな筈が……」
顔を真っ赤にして、首をふるふると振るフロン。純情なんだかそうでないのかよくわからない。
が、妄想にふけるフロンに、追い討ちをかけるように、より大きな声が響いてくる。



「ええい、エトナ往生際が悪いぞ!!俺様はいっそひと思いにやってしまいたいのだ!!!」
「ぜ、ぜ、絶対駄目ですってば―――!!!ほんと、止めて下さ…」
「もうお前の言う事など聞かん!ゆくぞ!」
「で、で、殿下!きゃああああぁぁぁぁぁぁああああああ!!!!!!!」



(こ、こ、こ、これはもしかして間違いないのではないでしょうか…?!ああ、ラハールさんも、ちゃんと人を愛すことが出来ていたのですね…!フロンは安心しました…!!)
フロンの脳内思考が、完全に夢と希望という名の妄想で固まった瞬間。



「極炎ナックル!!!!!!」
ずどばこーん
「あああああ、やっちゃった〜〜〜〜………」



「…はい?」
え?え?極炎ナックル?
「ちょ、ちょっと待って下さーーい!!ラハールさん、エトナさーん!!!」
勢い良くフロンは飛び出していくと、目の前には、明らかにフロンの登場に疑問符を浮かべた二人と、ラハールの手から燃え上がる炎と、もくもくと床から煙が立ち昇る様。
そして、数分して煙が晴れた頃、その床から出てきたのは……黒髭男爵、ブラックショッカー、女の敵、黒の侵入者、と様々な異名が名高い、あの虫。正式名称を、ゴキブリといった。
「はれれれれれ?ら、ラハールさんにエトナさん、何をしてい…」
「なんだフロンか。見て分からぬのか?このゴキブリを始末していたのだ」
「床が汚れるから潰さないでって言ってたのに〜、殿下ったら問答無用でドカンしちゃうしさ〜」
「ご、ごきぶ………て、てっきりわたしはお二人が愛し合っていたのかと…」
「ハァ?何寝言を言っているのだ」
「そーよ。フロンちゃん寝惚けてんの?」
「そ、そ、そんなぁ…」
フロンは完全に脱力して、呆気にとられた表情のまま固まった。
「あれ?フロンちゃん?でで殿下!フロンちゃんが硬直しちゃいましたよ?!」
「な、何故だ?!おいフロン、フロ――――――ン?!!!!」



ラハールにれっきとした愛が生まれるのはまだ先のようだった。










あとがき。
元拍手お礼用の、ラハエト+フロンちゃんな小説。
結局フロンちゃんが聞いた妖しい声は、ゴキ●リに対抗しているだけだった、なんてネタ。生殺しぽくてすみません(汗)笑っていただければ幸いかと…てかエトナはゴキは苦手なんでしょうかね?(え)
それでは、ここまで読んで頂いて有難うございました。



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